ダムにたよらない総合治水の勉強会 報告
公共事業チェックを求めるNGOの会事務局


2002年12月15日(日)、岐阜市のハートフルスクエアGに河川環境専門家のカール・アレクサンダー・ジンク氏をお招きして、今年8月に発生したヨーロッパの大洪水について報告していただきました。その後、出席者との質疑応答が行われました。

ジンクさんの基調講演の概要

1. 洪水の被害
今年8月の大洪水の規模は1000年か2000年に一度の大災害であり、川に流れ出た水はそれまでの最大の出水量の4倍から5倍にもなった。その結果、少なくとも97人が死亡し、数十万人が避難した。オーストリアでは1万個の家屋が被害を受け、チェコでは被害額がGDPの3%に達した。この救援活動も戦後最大のものとなり、12万8000人がその活動に当たった。

2. 洪水の原因
まず、とてつもない雨が降り続いたという極端な気象状況(気候変動)が挙げられる。さらに不充分な洪水防止システム(たとえば古い堤防、誤った貯水池管理)や貧弱な警報システム、水につかりやすい地域で道路や建物の建設が進んでいたこと、遊水地が少なくなっていたこと、川底が水路化されていたために流れが加速されたこと、地表面を舗装することにより、雨水の浸透率が低下した(ドイツでは一日に120ヘクタールもの自然の地表が失われている)ことなどが指摘された。

3. 政策の転換
ドイツ政府は「洪水を防ぐための建築物が下流域の洪水の危険をかえって増やした。よって、氾濫原を取り戻すために国家が努力しなければならない。」とし、堤防の後退、遊水地の整備などで河川にもっとスペースを与えること、今後、氾濫原には決して建造物を作らず、すでにあるもについては見直す、などの5つのプログラムに同意した。

4. 結論
今回の洪水は信じられないような被害をもたらした。そのため河川管理政策の変更は全面的に受け入れられ、最優先で施行されるだろう。ヨーロッパのあたらしい河川管理政策の目標は「良質な状態」である。洪水による被害が生じない状態を維持することが最も費用対効果のある手段であり、遊水地を整備することは最も安上がりな方法である。

ジンクさんはこのあと、田中知事がドイツの河川を視察した時の写真を紹介し、「我々は今回の洪水から多くのことを学んだ。最も安くて最も自然環境にもやさしい治水を進めるために、これからもお互いに情報交換をし合いましょう」と結んだ。

コーヒーブレイクのあと、約70名の出席者との質疑応答が始まりました。

Q.近自然工法はヨーロッパではどのように評価されているか?
A.近自然工法はヨーロッパでは1980年代に多く取り入れられた。川の流れをゆっくりにしたり、水性生物にとっては生息地を確保できるようにはなるだろう。だが、問題は、費用がかかりすぎ、作業内容も多く、その後のメンテナンスも必要となる。1990年以降、川にもっとスペースを与え、人間の手を加える事は極力抑え、そしてかつての氾濫原をつなぎなおしたり、流域全体を考えるようになった。"生きた川"と呼ばれるのはこのようなことからである。川が自分で発展することを許すのである。すなわち人間の仕事はかつて作った人工の構造物を取り除くだけで、あとは川にまかせるのである。長い目で見れば、この方がメンテナンスも特に必要無く、生物多様性にも貢献し、生態系は完全に守られ、総合的な政策を施行でき、結果的に安いことがわかった。追加された川幅の中で川は自然の堆積、進化を遂げ、豊かな生態系を築き、保水力は大きく高まり、治水効果はとても高く、水の浄化力も高いことが判明した。このことによる経済効果は大きい。

Q.太田川の流域に広がる水田を遊水地として活用しようという運動をしているがどう思うか。
A.良いと思う。ドイツでは多くの農耕地が遊水地として採用されていて、浸水した場合は手厚い保証がある。浸水したことを喜ぶ農民もいるし、水が引いた後は、肥沃な耕地としてよみがえると喜ぶ農民もいる。

Q.徳山ダムの予定地にゴミ処理場の跡があるがドイツではどのように対処するか?
A.まず、そこがどのような汚染物質があるか調査をする。有害なものが見つかれば徹底的に取り除く。それが住むまで工事が進められることはないだろう。

Q.日本で欧州のような治水対策を進めるには?
A.お互いに情報を交換すること、行政に話しかける事。彼らも人間なのだからわからないはずはない。そうやってすこしづつ世論を形成していくしかないのではないか。

これ以外にも、時間いっぱいまで質問は続き、ジンクさんはひとつひとつ丁寧に答えていました。愛知県や静岡県からも参加があり、ダムに頼らない治水をじっくりと学ぶことができました。



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