脱ダム国際シンポジウム <ダムにたよらない総合治水を考える> 報告
公共事業チェックを求めるNGOの会事務局
2002年12月12日(木)、長野県松本市勤労者福祉センターに河川環境専門家のカール・アレクサンダー・ジンク氏をお招きして、今年8月に発生したヨーロッパの大洪水について報告していただきました。その後、西日本科学技術研究所所長の福留脩文さんや天野礼子代表の講演と、田中康夫・長野県知事、五十嵐敬喜・法政大学教授、天野礼子さん、脱ダム国際シンポジウム実行委員会の田口哲男さんによるパネルディスカッションが行われました。
ジンクさんの基調講演の概要
1. 洪水の被害
今年8月の大洪水の規模は1000年か2000年に一度の大災害であり、川に流れ出た水はそれまでの最大の出水量の4倍から5倍にもなった。その結果、少なくとも97人が死亡し、数十万人が避難した。オーストリアでは1万個の家屋が被害を受け、チェコでは被害額がGDPの3%に達した。この救援活動も戦後最大のものとなり、12万8000人がその活動に当たった。
2. 洪水の原因
まず、とてつもない雨が降り続いたという極端な気象状況(気候変動)が挙げられる。さらに不充分な洪水防止システム(たとえば古い堤防、誤った貯水池管理)や貧弱な警報システム、水につかりやすい地域で道路や建物の建設が進んでいたこと、遊水地が少なくなっていたこと、川底が水路化されていたために流れが加速されたこと、地表面を舗装することにより、雨水の浸透率が低下した(ドイツでは一日に120ヘクタールもの自然の地表が失われている)ことなどが指摘された。
3. 政策の転換
ドイツ政府は「洪水を防ぐための建築物が下流域の洪水の危険をかえって増やした。よって、氾濫原を取り戻すために国家が努力しなければならない。」とし、堤防の後退、遊水地の整備などで河川にもっとスペースを与えること、今後、氾濫原には決して建造物を作らず、すでにあるもについては見直す、などの5つのプログラムに同意した。
4. 結論
今回の洪水は信じられないような被害をもたらした。そのため河川管理政策の変更は全面的に受け入れられ、最優先で施行されるだろう。ヨーロッパのあたらしい河川管理政策の目標は「良質な状態」である。洪水による被害が生じない状態を維持することが最も費用対効果のある手段であり、遊水地を整備することは最も安上がりな方法である。
ジンクさんはこのあと、田中知事がドイツの河川を視察した時の写真を紹介し、「我々は今回の洪水から多くのことを学んだ。最も安くて最も自然環境にもやさしい治水を進めるために、これからもお互いに情報交換をし合いましょう」と結んだ。
続いての講演では、福留さんが実際に施行された現場の写真を紹介しながら、近自然河川工法について、お話されました。川の流れを見て自然石を川岸や川の中に配置することによって、自然な流れを取り戻し、それが治水や生態系の回復に役立っているとのことでした。
つぎに天野礼子代表が、まず、先日国会で成立した自然再生推進法案について、いろんな問題点が指摘される中で成立してしまったが、できてしまった以上、これを逆手にとって、本物の自然再生を進める手段としたいと話しをしました。その後、スライドを交えながら10月に視察してきたばかりのアメリカでのダムの撤去の事情を話しました。すでに数百のダムが撤去されたそうですが、小さなダムでなく200m級のダムの撤去計画も進んでいるとのことでした。
このあと、長野県庁の小林勇雄・松本建設事務所長が、薄川の大仏ダム建設の現状と今後について説明をされた後、パネルディスカッションが始まりました。
潮谷熊本県知事が表明した7年後の荒瀬ダム撤去について、田中知事は川辺川ダムの建設が荒瀬ダムの撤去と引き替えに強行されてしまわないかと、心配をされていました。五十嵐教授が大規模な公共事業に対置して、市民が行う小規模で創意に満ちた事業を「市民事業」として提案されると、長野県にも市民事業にふさわしいいくつかのアイディアがあると知事が答えました。田中知事が国土交通省や県議会をネタにしたジョークを飛ばすと会場は沸いていました。マスコミも多く駆けつけ、立ち見の参加者がいっぱいという盛況のうちにシンポジウムは終了しました。