三重県北中勢地域の水道用水
−長良川河口堰によらない供給可能性−
2004.12.14 
弁護士 在 間 正 史


1.木曽川水系水資源開発基本計画地域の市町村の水道水源

木曽川水系水資源開発基本計画(木曽川水系フルプラン)
 1993年改定:目標年次2000年(平成12年)、水道用水の供給地域を北勢に拡大
 2004年改定:目標年次2015年(平成27年)
水道用水供給地域
 北勢地域:四日市、桑名、鈴鹿市、木曽岬、長島、朝日、川越、楠、菰野町
 中勢地域:津、久居市、一志、嬉野、白山、三雲、河芸、安濃、芸濃町、美里村
市町村の水道水源
 @自己水源
 A水道用水供給事業(県営)の契約受水
水道用水供給事業
 北中勢水道用水供給事業(三重県企業庁)
 北勢系(旧北勢水道用水供給事業) 計画178,900m3/日(現在137,700m3/日)
水源:木曽川総合用水(岩屋ダム)1.00m3/s 播磨浄水場80,300m3/日
   三重用水0.67m3/s 水沢浄水場51,000m3/日
   河口堰1.800m3/s 6,400m3/日(計画47,600m3/日)
 中勢系(旧中勢水道用水供給事業) 計画165,000m3/日(現在140,216m3/日)
水源:雲出川(君ヶ野ダム)1.019m3/s 高野浄水場81,416m3/日
   河口堰1.04m3/s 大里浄水場58,800m3/日(計画83,584m3/日)
河口堰によらない供給可能性検討の視点
 自己水源、河口堰以外の中北勢水道用水供給事業、他の余剰水源で供給可能か

2.2004年木曽川水系フルプランにおける三重県の需給想定調査(資料1)

1)北勢地域

需要
2000年実績 2015年想定
一日平均給水量 立方メートル/日 338,900 335,013
一人一日平均給水量 (L/人)/日 433.3 421.4
負荷率 0.835 0.795
1日最大給水量 立方メートル/日 405,000 433,163
利用量率 0.973 0.970
1日最大取水量 立方メートル/日 394,910 446,560
1日平均取水量 立方メートル/日 329,750 355,015
供給
水源 開発水量
立方メートル/秒
開発水量
立方メートル/日
取水量
立方メートル/日
S62供給率 S63供給率
立方メートル/日
自己水源 4.18 361,582 361,582 1.00 361,582
北中勢水道用水供給事業
木曽川総合用水 1.00 86,400 82,080 0.44 36,115
三重用水 0.67 57,700 54,815 0.75 41,111
長良川河口堰 0.12 10,336 10,336 0.75 7,752
(計画)長良川河口堰 1.80 155,520 155,520 0.75 116,640
北中勢水道用水供給事業必要量 (需要量-自己水源量)
最大取水量 立方メートル/日 84,978
平均取水量 立方メートル/日 0


2)中勢地域
 

需要
2000年実績 2015年想定
一日平均給水量 立方メートル/日 136,300 142,618
一人一日平均給水量 (L/人)/日 460.2 469.3
負荷率 0.770 0.748
1日最大給水量 立方メートル/日 177,100 190,666
利用量率 0.925 0.890
1日最大取水量 立方メートル/日 209,088 214,231
1日平均取水量 立方メートル/日 146,880 160,245
供給
水源 開発水量
立方メートル/秒
開発水量
立方メートル/日
取水量
立方メートル/日
S62供給率 S63供給率
立方メートル/日
自己水源 1.14 98,156 98,156 1.00 98,156
北中勢水道用水供給事業
雲出川・君ケ野ダム 1.019 88,000 88,000 0.87 76,560
長良川河口堰 0.61 52,687 52,687 0.75 39,515
(計画)長良川河口堰 1.04 89,856 89,856 0.75 67,392
北中勢水道用水供給事業必要量 (需要量-自己水源量)
最大取水量 立方メートル/日 116,075
平均取水量 立方メートル/日 62,089


3)河口堰供給水の必要性の根拠
 S62年度供給可能量を前提として、最大取水量需要に対して河口堰供給水が必要

3.木曽川総合用水(水源岩屋ダム)の供給可能量の検討(資料2)

−昭和62年度の河川流況での岩屋ダムの供給可能水量は開発水量の44%か−
1)岩屋ダム
岩屋ダムは、木曽川の最大の支流飛騨川の支流の馬瀬川にあるダム。利水容量6190万m3に比べて、開発水量が都市用水39.56m3/sと非常に大きい。特に馬飼頭首工(木曽川大堰)によって開発された木曽川総合用水の都市用水開発水量が36.92m3/sと大きい。木曽川総合用水は、馬飼頭首工での合口取水によって、河川自流取水をしていた既得慣行農業水利権54.12m3/sを25.64m3/sに縮小整理し、これによって余剰となったものを新規都市用水の水源とした。木曽川総合用水は、自流利用の既得水利権の削減によって生まれた自流利用の水源であって、ダム補給水は補助的なものである。
2)木曽川の基準流量
河川自流取水制限流量:馬飼(=成戸、木曽川大堰)地点50m3/s
この流量を下回ると新規の都市用水等は河川自流取水ができない。
ダム貯留制限流量:今渡地点100m3/s、馬飼地点50m3/s
この流量を下回ると新規の都市用水等の水源の上流ダムは貯水ができない。
3)問題点
 木曽川総合用水の開発水量が冬季でも30m3/s程度と大きく、他方、馬飼地点の基準流量が50m3/sと大きいので、河川流量が50m3/s近くに減少すると、新規都市用水は取水のためにダム補給水を放流しなければならず、岩屋ダムは急激に貯水量が減少する(最大開発水量では、満水でも16日間で利水容量はゼロになる)。
4)問題解決方法(基準流量の切り下げ調整)
 馬飼地点の河川自流取水制限流量が50m3/sと大きいので、これを渇水調整として削減緩和すると、木曽川総合用水の河川自流取水量が大きく増える。ダム補給水必要水量が減少あるいは無くなり、岩屋ダムの貯水量が低下しなくなる。
 馬飼地点の50m3/sは、水利使用がない専ら河川維持流量で、河川維持流量としては大きい。流域面積が1.6倍の利根川の利根川大堰地点の河川維持流量は30m3/s。
 1986年度(昭和61年度)に、渇水対策として、馬飼地点の河川自流取水制限流量50m3/sが40m3/sに切り下げられた例がある。
5)1987年度(昭和62年度)の実際(大量の不利用および不使用水)
水利権者が必要量を取水していても、ダム貯水量はゼロにならなかった。
理由
水需要がないため利用又は使用されていないので、実際の取水量が少ない。
主なもので、工業用水のうち、愛知県の2.52m3/s、岐阜県の4.15m3/sは水利権がなく、三重県の水利権7.00m3/sのうちの2.00m3/sは不使用で、合計8.67m3/sが不利用および不使用。名古屋市水道の取水量は、水利権量11.94m3/sのうち、冬季は2.6〜2.1m3/sと、開発水量での月別取水量のうち5.5m3/s程度は不使用。
6)不利用水等の取水必要量からの除外と基準流量の削減緩和による供給可能性
 工業用水のうち岐阜県の4.13m3/s愛知県の2.52m3/s、三重県の2.00m3/s、名古屋市水道の5.00m3/s、合計13.65m3/sは明らかに需要が見込まれない。愛知県の工業用水2.52m3/sを河口堰建設前と同様に水道用水に転用するととしても、合計11.13m3/sが不利用であり、岩屋ダム運用における取水量は最大で33.631m3/s、冬季は22〜25m3/s程度。
 岩屋ダムの貯水量が大きく低下したときに、馬飼地点の自流取水制限流量50m3/s等の基準流量を削減緩和すれば、木曽川総合用水は必要水量が取水可能。
7)まとめ
 木曽川総合用水の必要水量の取水が可能となれば、供給条件が必要水量の供給可能へと大きく変わる。

表1 名古屋市水道 昭和62年度取水実績(月別平均) m3/s
犬山系 朝日系 合  計
既得 木曽川用水 既得 木曽川用水 既得 木曽川用水
水利権 実績 水利権 実績 水利権 実績 水利権 実績 水利権 実績 水利権 実績 不使用量 利用率
4 3.620 3.614 3.929 2.119 3.940 3.940 4.233 0.260 7.560 7.554 8.162 2.379 5.783 0.291
5 3.620 3.611 4.244 2.311 3.940 3.940 4.572 0.172 7.560 7.551 8.816 2.483 6.333 0.282
6 3.620 3.605 4.506 2.879 3.940 3.940 4.856 0.739 7.560 7.545 9.362 3.618 5.744 0.386
7 3.620 3.573 5.187 3.011 3.940 3.940 5.588 1.395 7.560 7.513 10.775 4.406 6.369 0.409
8 3.620 3.612 5.239 2.897 3.940 3.940 5.644 1.659 7.560 7.552 10.883 4.556 6.327 0.419
9 3.620 3.608 5.082 2.648 3.940 3.940 5.477 1.352 7.560 7.548 10.559 4.000 6.559 0.379
10 3.620 3.612 4.925 2.199 3.940 3.940 5.305 0.813 7.560 7.552 10.230 3.012 7.218 0.294
11 3.620 3.603 4.506 2.163 3.940 3.940 4.854 0.284 7.560 7.543 9.360 2.447 6.913 0.261
12 3.620 3.612 4.296 2.387 3.940 3.940 4.628 0.196 7.560 7.552 8.924 2.583 6.341 0.289
1 3.620 3.613 3.667 2.100 3.940 3.747 4.041 0.000 7.560 7.360 7.708 2.100 5.608 0.272
2 3.620 3.617 3.720 2.188 3.940 3.856 4.002 0.000 7.560 7.473 7.722 2.188 5.534 0.283
3 3.620 3.618 3.720 2.249 3.940 3.940 4.002 0.026 7.560 7.558 7.722 2.275 5.447 0.295
資料:名古屋市水道局建設部建設課『名古屋市水道の取水実績について(昭和62年度)』






4.北中勢水道用水供給事業の給水実態
給水実績:資料3
考察:
 北勢系も中勢系も、系内各水源の給水能力に余剰がある。
 平均給水量では、北勢系も中勢系も、河口堰(長良川水系)は不要。
 北勢系では、最大給水量でも河口堰は不要。
 中勢系の最大給水量など給水量が極端に多い僅かな日数で、河口堰を使用。
 北中勢全体としては、最大給水量でも河口堰は不要。
 他水源を減らして、河口堰を使用。

5.三重県2015年需要想定に対する供給の検討

需要想定は、これまでの実績の推移からは、過大想定(資料2)
北勢地域
木曽川総合用水と三重用水で、平均取水量はもちろん最大取水量でも、河口堰がなくとも供給可能。
中勢地域
平均取水量のときは、雲出川(君ヶ野ダム)だけで、供給可能。
雲出川(君ヶ野ダム)だけでは、最大取水量など取水量が極端に多いときに、供給不足になる。
北中勢水道用水供給事業としては、木曽川総合用水と三重用水で、最大取水量でも、河口堰がなくとも供給可能。

6.三重県は河口堰の費用負担に喘いでいる(三重県知事事務引継書)
河口堰の費用負担
水道用水:約103億円
工業用水:約242億円   合計:約345億円
需要がなくて、その回収ができない。水道用水は資料3のように少しだけ市町に転嫁して回収。工業用水は全く回収ができない。
三重県の水利権の更新をさせないためには、これを解決して三重県を助けることが重要。

■給水実績
事業名 項目 単位 平成8年度 平成9年度 平成10年度 平成11年度 平成12年度 平成13年度 平成14年度
北中勢水道用水供給事業 北勢系 木曽川用水系 給水能力 m3/日 80,300 80,300 80,300 80,300 80,300 80,300 80,300
年間給水量 m3/年 14,816,217 14,036,144 14,365,868 14,460,344 14,647,791 13,698,604 12,811,945
一日平均給水量 m3/日 40,592 38,561 39,038 39,726 40,131 37,634 35,101
一日最大給水量 m3/日 59,607 57,556 59,898 56,316 55,921 52,056 49,706
料金収入 千円/年 1,560,705 1,530,282 1,543,141 1,546,825 1,557,543 1,517,118 1,482,538
三重用水系 給水能力 m3/日 51,000 51,000 51,000 51,000 51,000 51,000 51,000
年間給水量 m3/年 8,206,871 9,679,276 11,138,989 12,858,532 12,105,277 12,082,671 12,111,192
一日平均給水量 m3/日 22,485 26,591 30,269 35,326 33,165 33,194 33,181
一日最大給水量 m3/日 27,434 31,965 35,119 39,647 36,937 38,659 38,949
料金収入 千円/年 2,635,115 2,745,546 2,855,024 2,983,990 2,927,496 2,925,800 2,927,939
長良川水系 給水能力 m3/日 - - - - - 6,400 6,400
年間給水量 m3/年 - - - - - 659,105 839,716
一日平均給水量 m3/日 - - - - - 1,867 2,301
一日最大給水量 m3/日 - - - - - 4,054 4,289
料金収入 千円/年 - - - - - 129,940 140,269
中勢系 雲出川水系 給水能力 m3/日 99,316 99,316 81,416 81,416 81,416 81,416 81,416
年間給水量 m3/年 22,321,335 20,742,580 18,991,632 19,379,228 18,090,708 15,134,837 14,053,760
一日平均給水量 m3/日 61,154 56,985 51,608 53,240 49,564 41,579 38,503
一日最大給水量 m3/日 94,468 83,633 79,064 75,310 76,312 77,890 55,427
料金収入 千円/年 1,414,992 1,353,968 1,111,931 1,127,047 1,076,794 961,516 919,354
長良川水系 給水能力 m3/日 - - 58,800 58,800 58,800 58,800 58,800
年間給水量 m3/年 - - 3,639,417 4,699,036 5,384,548 5,960,761 6,251,865
一日平均給水量 m3/日 - - 10,223 12,909 14,752 16,376 17,128
一日最大給水量 m3/日 - - 13,477 21,501 33,600 22,242 23,235
料金収入 千円/年 - - 1,625,013 1,735,478 1,776,609 1,811,182 1,828,648
南勢志摩水道用水供給事業 南勢系 給水能力 m3/日 125,150 125,150 125,150 128,150 128,150 128,150 128,150
年間給水量 m3/年 17,764,241 19,251,948 20,850,670 22,066,081 21,317,422 21,475,092 21,682,023
一日平均給水量 m3/日 48,669 52,890 56,659 60,621 58,404 58,998 59,403
一日最大給水量 m3/日 58,309 54,627 69,323 73,262 76,354 74,944 70,255
料金収入 千円/年 3,258,482 3,347,745 3,443,668 3,567,745 3,315,657 3,318,402 3,333,473
志摩系 給水能力 m3/日 41,000 41,000 41,000 41,000 41,000 41,000 41,000
年間給水量 m3/年 8,677,117 8,655,001 8,851,457 8,754,298 8,580,988 8,415,691 8,356,310
一日平均給水量 m3/日 23,773 23,777 24,053 24,050 23,510 23,120 22,894
一日最大給水量 m3/日 37,179 34,075 36,648 34,046 34,697 32,766 32,569
料金収入 千円/年 1,086,250 1,242,944 1,255,407 1,251,618 1,192,392 1,184,292 1,181,976
合計 給水能力 m3/日 396,766 396,766 437,666 440,666 440,666 447,066 447,066
年間給水量 m3/年 71,785,781 72,364,949 77,838,033 82,217,519 80,126,734 77,426,761 76,106,811
一日平均給水量 m3/日 196,673 198,805 211,850 225,872 219,525 212,768 208,512
一日最大給水量 m3/日 - - - - - - -
料金収入 千円/年 9,955,544 10,220,485 10,834,184 12,212,703 11,846,491 11,848,250 11,814,196
 (注1)料金収入は消費税抜き 
 (注2)年間給水量算出の際の期間計算は水道の検針日(給水量測定日)を基準にしています。     
     検針日は毎月20日としていますが当日が土・日・祝日に当たる時は、その日後において     
     最も近い土・日・祝日以外の日とするため1年間の日数が年度により多少変化します。     
     従って、必ずしも【年間給水量÷365日=一日平均給水量】とはなりません。


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