ハーリングフリート河口堰の一部開放:
オランダ・デルタ計画による環境影響の緩和へ向けて

Hugo Coops(RIZA、陸水管理・廃水処理研究所),
Stan Kerkhofs and Kees Storm(オランダ水資源管理省)

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なぜ、デルタ地帯にダム建設か?
オランダの大部分はライン川とムーズ川が織りなすデルタ地帯に位置している。
臨海の低地帯は我が国の利点であり、人口と経済発展をもたらした。
一方で、河川・海からの水害とは常に背中合わせであった。
特に、1953年2月1日に南西地域を襲った洪水の被害は甚大であり、1800名近い命を奪った。
災害防止のため、デルタ計画が手がけられ、
永続的な国土保護を目指し、構想案を経て、本計画は1958年に採択された。

デルタ計画は、ロッテルダムとアントワーペン港への河口地域を除く
全分流河口域にダムを落成するという内容であり、
1960年から1969年のダム建設ラッシュを経て、17の水門からなり、
河川から海への排水を調整する目的を担う
ハーリングフリート河口堰が1970年に完成した。

東スヘルデ分流に建設予定であった最後のダムは、
環境に対する意識の高まりから1970年代に大規模な反対運動を巻き起こした。
他の河口分流地域のように、独特な潮汐生態系が失われ、無酸素状態
、悪臭を発する水の華、貴重なイガイ床の消失が起こるであろうとの懸念からの運動である。
この論議は技術的解決策で幕を閉じ、1986年に巨大な高潮防壁が最終的に完成した。


ハーリングフリート河口堰による影響
ダムはライン川・ムーズ川河口地帯の主要分流にあり、
汽水域独特の湿地帯が広がっている。
数多くの生物相に生息場所を与え、サーモンやニシンダマシ(アローサ)、
チョウザメ等の重要魚類の主要回遊路として重要であった。

これらの貴重な自然の恩恵は、河川整備、築堤、汚染などにより既に損なわれつつあったが、
ハーリングフリート河口堰建設によって決定的な大打撃を被ることになった。

ハーリングフリート水門堰によるマイナス要因には以下のようなものがある:
1) 潮位差が2メートル以上から0.3メートルへ減少、
  汽水域が6550haから300ha足らずに減少。
  これに伴い、シギ・チドリ類の餌場消失および汽水帯植生から荒原植生への移行が起こった。
2) ガマ、アシ、ヤナギ林、汽水域漁業はほとんど消え去りつつある
3) かつての汽水変遷域は完全に失われ、河口域魚類や
  大型無脊椎動物の生息地や汽水域独特な植物相も姿を消した
4) 水位安定による低地海岸線の広範囲浸食
5) かつての河口地域水路における高濃度汚染シルトの多大な堆積(重金属、PCBなど)
6) 食物連鎖に入り込む堆積物中の有害化合物の危険性を伴う、海洋性生産から
  底生生物生産(貧毛類、ゼブラ貝)によって左右される食物網の変遷
7) 水の華と深水層における酸素不足を招く汽水域水質の存在期間延長

生態系に及ぼす悪影響に対し、ハーリングフリート河口堰はプラス要因ももたらした:
1) 飲料、農業用の水源確保
2) ロッテルダムとアントワーペン港間の安定した連絡水路
3) 娯楽用地および道路基盤の可能性
4) 河口前面の地形的発達

ハーリングフリート河口堰は再び開放されるか?
河口域環境におけるダムのマイナス要因、
また分流域のダム建設に対する姿勢変化を踏まえ、
東スヘルデをよい例として、現存水門の代替管理が1994年から1998年の間に、
環境影響調査の対象となった。

その目標は、ダムが建設された安全水準に影響することなく、
河口域の回復可能性をアセスメントすることである。
結果は、高潮防壁としてのハーリングフリート河口堰水門の運用は河口域地域の再建となりうるが、
多様な機能におけるマイナス要因は多額の補償処置を必要とするであろうというものであった。
ゆえに、連続段階の水門開放を伴う「ブロークン潮汐」と
「コントロール潮汐」と呼ばれる中間代替案もまた調査対象となった。

第4回水質管理国政調書(1998)の中で、「コントロール潮汐」を段階的に履行することが採決された。
この選択肢は、水門を年95%の期間に3分の1開放することを盛り込んでいる。
「若干の水門開放(スルース・アジャー)」(年75%期間、10%開放)と呼ばれる初期段階は
ハーリングフリートにおける汽水域変遷帯の部分的回復と回遊魚の遡上を目標としている。
残念ながら、これは、より大規模なスケールでの潮汐影響や堆積物運搬は期待できない。

2001年、「スルース・アジャー」計画の準備が整い、新しい河口堰運用要綱の定義、
淡水取水口の保護規約、意志決定と情報公開過程なども盛り込まれた。
2002年から2003年にかけ、この計画は政治的変化と不況による多大な影響を受けた。
莫大な予算や環境問題に対する意識の薄れなどにより、再審議が行われ、
昨年11月、政府は「スルース・アジャー」を2015年に実行すると決議し、
3500万ユーロの予算とこれ以上措置は行わないと締めくくった。

翻訳 青木歩(自然科学系学術翻訳者)
                           


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