ダムから緑のインフラへ
―21世紀の河川管理―

アメリカン・リバーズ
ジョン・シーバック(水力発電改革推進事業担当理事) 
 

アメリカン・リバーズについて
アメリカ最大の河川保護NGO。
人類、野生動物、自然を守るために、河川を保護し再生する活動を行っている。
1973年に設立され、65,000名余りの会員と賛助会員を擁する。
ワシントンDC及びアメリカ全土に事務所がある。

ジョン・シーバック氏のプロフィール
アメリカン・リバーズ内の「水力発電改革推進事業」(水力発電用ダム及び付帯設備によって引き起こされた悪影響を軽減させる活動を行う)の担当理事。
アメリカ全土で河川保護活動を行っている150余りのNGOの連合体の議長でもある。
デビッドソン大学卒。ケンッタキー大学大学院国際関係および環境問題紛争解決論修士課程修了


本日私は皆さんがなさっている活動に対し、皆さん一人ひとりに感謝することから始めたいと思います。私には、1990年代後半日本に住んでいた時、吉野川や長良川といった清流をカヤックで下った楽しい思い出があります。ノース・カロライナの西部、そこには自由に流れている川がたくさんあります。そこから日本に来て、余りにも多くの川にダムが出来ていたり、運河のようになっていたり、流れをねじ曲げられていたり、挙句の果てにはコンクリートの中に封じ込まれているのを見てショックを受けました。その当時働いていた高校の先生の一人から長良川河口堰やその他の環境に関する訴訟問題について教えてもらいました。吉野川に計画されていたダム建設に対して、徳島で行われた住民投票において普通の一般市民が、権力を持った冷たい官僚に対し勝利したというニュースに感動し強い印象を受けたことを思い出します。

事実、そのことに触発され、私は今河川を保護するという仕事をしているのです。

再びこうして日本に来て、環境問題、特にダムについて皆さんにお話をする機会を得て、今気持ちが高ぶっています。公共事業を、可能な限りの地表をコンクリートで固めてしまうのではないかと思われるような公共事業から、地域社会のために自然環境そのもの、また川や森林や湿地がもたらしてくれる恩恵を再生する事業へと方向転換させる大きな可能性が皆さんの前に広がっていると思います。自然は美しい。美しいだけではなく偉大な機能があります。皆さんが今行うべき挑戦は、自然の持つ機能を再生し保全してゆく最善の方法を見つけ出すことだと思います

アメリカでは、ダム建設に伴う大規模な環境破壊を元に戻すことに関し、大きな前進がありました。1950年代および60年代以降、環境保護団体は多くの大規模ダムの建設をストップさせ、ダム建設の時代に効果的に歯止めをかけることに成功しました。1970年代には、原生や景観河川を永久に保護する法律を成立させ、それらでのダム建設を永久にストップさせました。1980年代後半からは、水力発電ダムの所有者に対し、魚道を作り、また、ダムによる影響を受けた河川環境を改善するため、運転方法を変更するよう義務付ける方法を編み出しました。そして、1990年代には老朽化した、有害なダムの撤去が開始され、ダム撤去を急進的な考えから、公共の安全を守り、環境を回復するための費用対効果が高く、分別ある方法へと変えていきました。

今日は、私たちがアメリカでこれらの目標を達成する際に採用した戦略について、いくつかお話ししたいと思います。皆様の日本での取り組みに、これらの戦略がお役に立てば幸いです。

まず、アメリカにおけるダム建設の歴史に着いてかいつまんでお話ししたいと思います。正確な数は不明ですが、アメリカの河川には広い範囲でダムが建設されています。陸軍工兵隊のダム統計によると、大規模なダムだけが対象とは言え、85,000カ所のダムが記載されています。これらのダムの平均稼働年数は51年で、ダム安全専門家協会によると、そのうち4,000カ所以上が機能不全か危険であり、その数は残念ながら増えています。さらに、そうしたダムの1,800カ所以上が「危険度高」に分類され、公共の安全への大きな脅威となっています。

アメリカで最初に建設されたダムの目的は、工業向けに機械式動力を提供することでした。例えば、メイン州のケネベック川のエドワーズ堰が最初に建設されたのが1837年で、1840年代半ばまでに製材工場や製粉所、機械工場に電力を供給するようになりました。当時からダムの環境問題は十分認識されていました。地元民は、ダムがケネベック川の漁場を破壊するのではないかと懸念し、ダム建設が最初に提案された1834年に反対運動を起こしました。

結局ダムは建設され、予想通り、川の漁場は破壊されました。

エドワーズ堰は1999年に環境上の理由から撤去され、今日では、現代のダム撤去の始まりの象徴になっています。10年後、エドワーズ堰の撤去は成功だったと自信を持って言えます。2台の新しい風力タービンで代替がきく程度の少量の水力発電と引き換えに、河川は修復され、元に戻りました。堰によって川へ入ることができなかった10種類の回遊魚は現在、すべてかつて堰があった場所より上流で見ることができ、また、土手は野生の動植物でいっぱいです。漁民やボートが川に戻り、メイン州オーガスタ市は、ビジネスの拡大や、川を老朽化した発電所ではなく価値ある天然資源としてとらえる開発による恩恵を受けています。

次のダム建設の波は水力発電向けでした。これらのダムは主に民間企業によって建設されました。これらのスライドは、現在のワシントン州のオリンピック国立公園にあるエルワ川のエルワダムとグラインズキャニオンダムで、建設中の様子と、今日の姿を示したものです。エルワダムは1913年、グラインズキャニオンダムは1927年にそれぞれ建設されました。どちらのダムにも魚道は無く、また、ダム建設により、6種のパシフィックサーモンやスチールヘッドが113キロメートルにわたってその生息地から締め出され、生息地として残ったのは川のうちの8キロメートルに過ぎませんでした。

もちろん、魚の個体数は激減し、先住民のローアーエルワクララム人はその最も貴重な天然資源を奪われました。アメリカ連邦政府は2000年に両方のダムを買い取り、2011年からそれらの撤去を始める計画です。そして、撤去の結果、魚の数はほぼ100倍に増え、リクリエーション、観光およびスポーツフィッシングに関連した経済的利益として、1億6400万ドルが見込まれています。

興味深いのは、これら2つのダムを運転していた最後の民間企業が大昭和アメリカで、ダムによる水力発電の電気をワシントン州ポートアンジェルスの製紙工場向けに使用していました。誰かに質問されましたら、日本のダムが撤去されたもう一つの例としてこのことを思い出してください。

アメリカにおけるダム建設の最終段階は1930年代および40年代に本格的に始まり、1980年代まで続きました。ダムの多くが依然、民間公益事業によって建設されていた一方、ダム建設に関しては連邦政府の方がはりかに大きな役割を演じていました。

まず、連邦政府はダムを雇用創出に利用しました。南部アメリカ地域の近代化目的に設立されたテネシー峡谷開発公社(TVA)の写真をこれから数枚お見せしますが、同地域は大恐慌の基準で見てもはるかに貧しかったです。TVAはダムを約50か所に建設しました。南部が経済成長する一方、これらのダムの建設により水生生息地が著しく破壊され、何千世帯もが立ち退きを余儀なくされました。

ダム建設により、しばしば貧しい地方でエンジニアや建設労働者向けに雇用が創出され、また、農村開発へのカギであると考えられていた電気が供給されました。

1940年代前半までに、連邦政府の水力発電ダムはもう一つの目的を持つようになりました。すなわち、戦闘機その他の兵器用のアルミニウム製造に必要な電力を供給することでした。これからお見せするスライドは、第二次世界大戦中にボンヌビル電力事業団(BPA)が制作したポスターです。現在では、コロンビア川やテネシー峡谷の連邦政府建設のダムからの電力も別の目的に使われていたことがわかっています。すなわち、最初の核兵器製造に使われることになったウランの濃縮です。従って、私たちがダムを嫌うもう一つの理由がここにあります。

最終段階として、乾燥したアメリカ西部の農民や都市へ水を供給するためにダムが建設されました。こちらのスライドはコロンビア川のグランドクーリーダムです。大恐慌と第2次大戦が終わった後、アメリカの経済成長に伴ってダム建設のペースも速まりました。当時からダムの建設や運転に密接にかかわっている3つの連邦機関があります。

まず、1802年に設立された陸軍工兵隊がアメリカの水資源を確保する任務を負っています。陸軍工兵隊はダムを600カ所以上所有し、アメリカの水力発電の約24%、電力全体の3%を占め、アメリカ最大の水力発電源となっています。工兵隊の公共事業のほとんどは治水や航行に関するものです。

次に、土地改良局が1902年に設立され、乾燥したアメリカ西部において農民向けのかんがい用水供給を主な任務としています。コロラド川のフーバーダムやコロンビア川のグランドクーリーダムといったアメリカ最大級のダムを所有し、運転しています。

最後に、連邦エネルギー規制委員会(FERC)ですが、民間の水力発電ダムを管轄するこの機関は1920年に設立されました。アメリカの河川は市民に属しているので、そこで水力発電ダムを建設し、運転したいと考えるいかなる公共または民間の団体も、まずFERCから免許を取得しなければなりません。この免許の有効期間は30年または50年で、ダムをどのように建設するか、そして、環境面からもっと重要なことですが、ダムをどのように運転するか、免許によってこと細かく指示されています。私の取り組みの大部分は、FERCの免許が下りたダムの運転を改革しようとするものです。

第2次大戦後、工兵隊と土地改良局が積極的にダム建設を続けた結果、アメリカの河川、とりわけ西部で大規模な環境破壊が起こりました。これらの機関は、プロジェクトの費用便益分析が公正でなく、むしろダム建設予定地を探し出し、コストや社会面・環境面の影響を考慮せずにダム建設を続けることで政治家を喜ばせているだけだということに素早く気付きました。これらの機関は偏った費用便益分析、おびただしい間違い、そして場合によっては建設を正当化するためのあからさまなウソによって「帳簿をごまかす」ことで有名です。FERCは直接ダムを建設しているわけではありませんが、提案された民間プロジェクトの分析も同様に建設ありきで行われたことから、アメリカ初の近代環境法である環境政策法はFERCのダム免許をめぐる闘いに関する裁判が基になっています。ダム建設その他の水関連プロジェクトは利益誘導政治が広がったもので、連邦議会の議員はそれらを支持者へ建設プロジェクトを回すのに使い、農業用水やロックやダム、そして荷船の運航に補助金を付け、開発業者にはんらん原(げん)にダムを建設するよう勧めました。

皆様の中で英語をお読みになれる方がいらっしゃれば、マーク・ライスナーの著書、「キャディラック・デザート(砂漠):アメリカ西部と消えゆく水」という本を強くお勧めします。まだ日本語には翻訳されていないと思います。こうした水プロジェクトがどのようにアメリカ西部を形成していったかが書かれています。
(訳書あり:砂漠のキャデラック―アメリカの水資源開発  マーク ライスナー (著) 片岡 夏実 (翻訳) 築地書館)

アメリカでの環境保護運動の歴史は、多くの面でダムやダムの建設を止める試みと密接に結びついています。このスライドは、ワシントンポストとニューヨークタイムズでの有名なシエラクラブの全面広告で、グランドキャニオンのダム計画を止めようとしたものです。見出しにはこう書かれています。「観光客が天井に近づけるようにバチカンのシスティナ礼拝堂も水に沈めるべきなのでしょうか?」

1948年から69年までの間、シエラクラブ等の環境NGOはグレーシャー国立公園(モンタナ州)、キングスキャニオン国立公園(カリフォルニア州)、ダイナソー国定公園(ユタ州およびコロラド州)、グランドキャニオン(アリゾナ州)でのダム建設の試みを打ち砕いてきました。これら環境NGOは、直接の支援運動を通じて目的を達成しましたが、その際、市民に対して議員や関係機関に手紙を出すよう呼び掛けたり、メディアを通じてこれらの誤ったダムの提案に関し市民に知らせるよう働きかけたりしました。こうした取り組みにもかかわらず、この間にダム建設のペースは速まる一方でした。

この写真はグレンキャニオンダムのもので、コロラド川のグランドキャニオンの真上に建っています。グレンキャニオン協会(www.glencanyon.org)により、このダムを撤去するための運動が精力的に進められています。

そこでどのように私たちは方向転換したのでしょうか?どのようにダム建設を止め、既存のダムの環境改善と、最終的にそれらの撤去を始めたのでしょうか?建設地として適した(土木面や発電面から)多くの場所がすでに押さえられていたことが原因の一つです。大規模ダム建設時代の最後の段階で作られたダムの中には、地理的にダムに適さない場所に建てられたものもありました。このスライドは、アイダホ州ティートン川にある土地改良局のティートンダムです。1億ドルを投じて1975年に建てられましたが、翌76年に崩壊し、死者11名を出し、また、牛13000頭が犠牲になりました。試算では、被害額は20億ドルに上ったとされています。

無駄なダムの建設に対し、長年、直接アドボカシーを続けたことで、ダムにかかわる影響について市民や政治家たちの知識が高まったこともあげられます。新しいダムが必要なのかどうか疑問を持ち始める人が増え、政治家も耳を傾け始めました。ここに示しているのはジミー・カーター元大統領が地元のジョージア州で大統領選出前にカヌーで下っている様子です。大統領選出後まもなく、19カ所の無駄なダムプロジェクトの「終了予定」リストを発行し、それらが議会で承認された場合は拒否権を行使すると明言しました。

また、最も景観のすぐれた河川を開発やダム建設から永久に守る法律、原生・景観河川法も成立させました。この写真の中でカーター元大統領がカヌーで下っている川は、原生・景観河川の一つであるチャトゥーガ川です。私の好きな川でもあります。私たちの組織アメリカン・リバースは、この法律が成立した直後に設立され、ここでの私の最初の仕事は、できるだけ多くの川で原生や景観を守ることでした。私たちはそれに成功し、新しい川を保護するためにまだこの法律を活用しています。昨年、議会はオレゴン州、アイダホ州、アリゾナ州、ユタ州、バーモント州、マサチューセッツ州の1800キロメートにも及ぶ河川を全米原生・景観河系に加え、河岸13万ヘクタールを保護する法律を成立させました。

その他の環境を守るための法律は、好ましくないプロジェクトを実施することを一層難しくした。「国家環境基本法」は各機関に対し「環境に与える影響についての声明」を通じて真実を語ることを義務づけた。「絶滅危惧種保護法」は各機関が絶滅の恐れのある魚類、野生動植物を危険にさらす行為をすることを禁じている。

本日、私が皆様にお伝えするひとつのメッセージがあるとすれば、それはこういうことです。最も効果的な変化は、無駄なダム計画や古くなったダムを撤去するといった個々の勝利ではありません。大きな成功をもたらす変化とは、それによって決定がなされる法律や規則を変えることです。日本は政治の新時代に入りました。政治家の方々と一緒に公共事業関連の法律や規則を戦略的に変えてゆくことに時間と勢力を集中させるべきだと思います。そこで私たちが長い間ダムを建設する、あるいは許可を与える諸政府機関とやりあってきた経験から学んだ三つの教訓を皆さんと共有したいと思います。

教訓1:ダムの所有者に定期的にダムを訪問させ、ダムに関する決定を更新させること

もし私が近い将来ダムを建設したいと思ったら、最初にFERC(連邦エネルギー委員会)に許可を申請しなければなりません。その許可書には私がしなければならない建設、保全、操業の方法が詳細に書いてあります。そこに記されている技術的な規定から逸脱することは法律違反になります。ダム建設に投資した金額によって、許可の期間は30年あるいは50年と決められます。それらの条件は特別に申請しない限り変更されることはありません。その許可が期限切れになったら、二つのことが起こります。ひとつ、私は老人になっているでしょう。ふたつ、発電を続けたいと思ったらFERCから新たに許可を取らなければなりません。このことは重要でないように聞こえますが、ところが重要なことなのです。アメリカの発電用ダムのほとんどが環境関連の法律が無かった頃に建設されました。その当時は環境保全に配慮することは、ダム建設を進める上で単なる邪魔なものと考えられていました。ダムの所有者が新しい許可を取得するためにFERCに申請すると、ダムがいかに環境を破壊しているか、あるいはそれらの障害を軽減あるいは取り除くための許可条件が守られているか徹底的に調査されます。

私は水力発電用ダムについて活動している150のNGOの連合体である「水力発電改革連合」の議長をしています。私たちのグループには漁業者、環境保護論者、急流下りのカヌー愛好者、土地の所有者がいます。私たちはFERCの許可書再発行の手続きを利用して、ダムの所有者に川の流れをより自然の状態に戻すようにさせたり、分水界を保護したり、魚道を作らせたり、そのほか魚や野生動物あるいはリクレーションのためになる環境改善をするようにさせることに、非常に熟練してきました。私たちは過去20年間、何百というそのようなプロジェクトを行ってきました。これらはそのほんの一例です。

テネシー州とノース・カロライナ州にまたがるリトル・テネシー分水界では、私たちの提案により、水力発電許可再発行の際に4000ヘクタールの分水界が永久に保護されることになりました。また、ダムのバイパスによって干上がっていた二本の川をよみがえらせました。ダム所有者から環境保全とリクレーションのために1,200万ドルの資金を得ました。

ワシントン州のルイス川における再発行では干上がったバイパス水路に流れを取り戻し、川のほかの部分ではより自然な流れをよみがえらせました。さらに3,200万ドルの資金をリクレーション、魚や野生動物の生息環境向上のための資金として得ました。また、250kmにわたるサケの生息地を回復しました。
アイダホ州のベアー川では固有種のマス保護のための基金として1,600万ドルを得ました。建設後80年たった古いダムを撤去し、マスの生息地をさらに上流に伸ばし、10kmにわたり流れがよみがえり、川の生態系を豊かにしました。さらに渓流下りのリクレーションも出来るようになりました。このスライドは以前ダムがあったところです。

いくつかの例では、操業を続けるメリットより、近代的な基準にダムを作り変える費用のほうが大きくなります。このことを使って私たちはダムの所有者を、ダムを撤去するよう説得することも出来ました。多くの既に撤去したあるいはこれから行われる撤去は、FERCの再発行を定期的に見直すという制度の直接的な結果です。それに寄って撤去されたダムは次の通りです。メイン州ケネベック川のエドワードダム、ワシントン州エルワ川のエルワ・グラインズ渓谷ダム、ワシントン州ホワイト・サーモン川のコンヂットダム、メイン州ペノスコット川の二つのダム、ノース・カロライナ州ツカシーギー川のヂルスボロダム、オレゴン州フード川のパワーデイルダム、オレゴン州サンデー川のマーモットダムなどです。このヴィデオはマーモットダムの解体と締め切りダム撤去の様子です。そこではプロジェクトの技術者が、単純に川がダムを押し流すようにさせています。

9月末、オレゴン州とカリフォルニア州にまたがるクラマス川にある4基のダムを所有するパシフィック社と合意に達したことを発表しました。全て順調に行けば、2020年にこれら4基のダムは撤去されることになるでしょう。そうしたら川にサケがのぼってくる様になるでしょう。これらのダムは1908年から1962年の間に建設され、サケが産卵し孵化したクラマス川上流を数百キロメーターにもわたり分断しました。この川はそれまで西海岸で3番目にサケがたくさん獲れる川でした。ダムの貯水池に溜まった水は毒性を持ち、魚類や人間に脅威を与えました。これら4基のダムの発電量は小さく、他の再生可能な手段に代えることが可能でした。カリフォルニア・エネルギー委員会と内務局の研究によればダムを撤去し他のエネルギーに代えると、パシフィック社の顧客は30年間で2億2,500万ドル節約できるという。

これらのダムが最終的に撤去されれば、アメリカ史上始めての単独では最大のダム撤去になります。この流域ではかつて少ない水資源をめぐって、農民、職業漁師、アメリカ原住民の諸種族、環境問題論者の間で激しい議論が戦われました。私たちはこれらのグループと一緒になって活動することで、このダム撤去同意書を締結することが出来ました。この同意書はクラマス川流域再生同意書と一対になっています。この同意書には灌漑用水の配分方法が含まれています。国立野生生物保護区へ水を供給すること、魚類の数を増やすこと、影響を受けた地域の人たちを援助することなども盛り込まれています。FERCが許可を再発行することが直接これらの問題を解決するわけではありませんが、私たちに機会を与えてくれます。これらのグループと一緒にこの流域の水問題を解決しようとする枠組みを与えてくれました。

残念なことに連邦政府管轄のダムにはこのようは方法をとることはできません。工兵隊や開墾局は自主的にいくつかのダムを現在の基準に合うように改善していますが、まだ多くのダムは環境に悪影響を与える方法で操業が続けられています。これらを見直す公式な手続きや計画が無いのでこれらのダムに包括的な手段をとることは非常に困難です。結果として連邦政府管轄のダムの状況は、許可書見直しが行われている民間所有のダムより悪い。私の個人的な目標は連邦政府管轄のダムにも同様の定期的な見直しを適用することです。

教訓2:彼らに自然資源管轄部署の仕事を分担させること

本日私がお話した連邦政府の三つの機関は強い権限を持ち独立していて、それはダム建設時代よりももっと強くなっています。ご承知のようにある機関の風土を変えることは非常に困難です。しかし、環境保護に関してより強い倫理観をもっているほかの省庁と一緒に結論を出すように仕向ければ、よりよい結論を出させることは出来ます。FERCを例にとりましょう。それは独立した5人制の委員会によって運営されています。他のほとんどの連邦機関と違って大統領直轄ではありません。このことがその独立性を守っています。そのいくつかの独立性を放棄させた変化は、私たちが世間の目を惹いていたダムを撤去したという私たちの河川再生の努力の結果起きたものです。これらの変化が起きる前は、FERCの許可書再発行のための見直しは形式的なものでした。FERCが他の省庁と権限を分け合わなければならないことがいくつかあります。

No.1:今では、FERCは結論を下す時に、魚類、野生生物、リクレーションといった電力ではない価値に対しても、電力と同等の考慮を払うことを要求されている。FERCは州や連邦の省庁が出す魚類や野生生物を保護するための勧告を考慮しなければならない。例えば、バイパスの水路に水を戻すようFERCがダム所有者に対し勧告するように州政府の水産庁が要求した場合、FERCはダム許可書にその条件を入れるか、その勧告を受け入れない場合はその理由を文書で説明しなければならない。実際には、このことが常に行われるわけではありません。FERCがきちんとした説明なしに勧告を受け入れないことがしばしばあります。

No.2:現在、連邦政府の省庁はFERCが拒否できない条件を許可書に付加する権限を持つようになった。例えば、もし連邦政府の森林局がある決められた量の水を干上がった川に戻すように要求したら、FERCは許可の条件にそれを盛り込まなければならない。それは勧告より権限のあるもので、FERCは条件を拒否あるいは変更することは出来ない。同じように、連邦政府の海洋水産庁・魚類及び野生生物局が、許可条件に魚道を作ることを要求したら、FERCは魚道を作るよう要求しなければならない。なぜなら、これらの省庁は環境保護に関してFERCより強い関心を持っているからだ。このような条件は環境の質を大幅に向上させることが出来る。私が前に申し上げた、FERCが関係したクラマスダムを含むいくつかのダム撤去は、ダムの所有者が魚道を作るよりダムを撤去したほうが安上がりだと判断したからだ。

No.3:FERCやダムを建設計画している連邦の省庁は、その州が要求する水質基準をダム操業後に満たすことが出来るか見極めるがつくまで、ダム建設は出来ない。これは、いかなる新しいダムに対し、各州に拒否権を与えることになる。また現存するダムの操業停止をさせる権限を持つことになる。また各州はFERCが拒否できない条件を許可書に付加することが出来る。

このような条件の付加は、川の水温や流れの改善、魚道設置や他の保護政策など幅広く環境を改善する結果となった。

まだアメリカでは試していないのだが、もうひとつの良い方法は全ての省庁の結論や経済的な分析に対し、独立した機関による再検討を要求することだ。

教訓3:公共事業費を緑のプロジェクトに振り向けること

アメリカン・リバーズは1999年にダム撤去キャンペーン「障害物の無い川」を開始した。私たちが始めて10年間で、300以上のダムが撤去されるのを見てきた。これらは全て、いくつかの全国規模のNGO、数え切れないくらいの地方の河川保護の団体、州政府や連邦政府の自然資源関連の省庁、地域住民の努力のおかげだ。

ダム建設プロジェクトと同じようにダム撤去プロジェクトも、技術者、建設労働者、環境関連の科学者の手助けが必要だ。もしダム建設が公共事業費や仕事をもたらすことが出来るなら、ダム撤去も同様なことが出来る。

政治家たちは環境改善での実績をひけらかしながら、地元に仕事と予算と持ってくる手伝いをすることが出来る。工兵隊もこのことに気がつき始め、環境再生プロジェクトを増やし始めた。そのうちのいくつかは良いものだ。このスライドは元上院議員ジョン・ワーナー氏がヴァージニア州ラパハンノック川のエンブリーダムを撤去している時の写真です。彼は後日、このダムの撤去が自分の業績の中で最も誇れるものだと言っている。

私たちの河川再生事業が大きくなるに従い、これらの事業をまかなう資金を民間から集めることが出来るようになった。古くなって、壊れて危険な状態になったダムを修理するより、ダムを撤去したほうがより安全で結局安上がりだと言うことを広く伝えることでそうすることが出来るようになった。

2001年以来、海洋水産庁はダムや河川にある障害物を撤去するための国家供与計画に450万ドルを提供してくれた。毎年、この資金を元手に地方のダム撤去事業に資金援助を行っている。現在、この共同事業はアメリカ全土125の河川再生事業に資金提供している。私たちは水産庁に追加の資金提供をお願いしており、これから3年間で550万ドルが追加の再生事業に提供されるでしょう。

私たちが多くの州が危険な古いダムを撤去することを手助けしてきた。例えば、ペンシルヴァニア州は2003年以来ダム撤去事業に160万ドル以上提供してくれた。私たちはこの資金を使ってさらによそから400万ドルの資金と援助を手にすることが出来た。そして、65件のダム撤去を完了し、100件のプロジェクトが進行中だ。

結論

私はアメリカン・リバーズの21世紀の河川管理のヴィジョンを皆さんと共有して、今日の話を終わりたいと思います。

私たちは過去に作られたダムや大きな水関連のインフラ構築物が関係する様々な問題を解決しながら、将来に向けそのようなものに取って代わる前向きなヴィジョンを立ち上げようとしています。アメリカ合衆国は公共事業のために10億ドルの景気刺激計画に着手した。私たちの構想では河川、森林、氾濫原が、それらが本来持っている機能を使って自然に私たちのために働いてくれるでしょう。

きれいな水は私たちの健康、地域社会、命に不可欠です。しかし、合衆国において、水関連のインフラ(上水道、下水道、高水排水システム、ダム、堤防など)は非常に時代遅れになっています。さらに、私たちは最も重要な、森林、渓流、湿地、氾濫原のような自然の「インフラストラクチュアー」を破壊し続けてきました。気候変動がこれらの諸問題をひとつにまとめています。気温の上昇、水需要の増加、広がる旱魃。激しい嵐は私たちの水供給を危うくし、私たちの地域社会を水浸しにし、私たちの水路を汚染します。

私たちが長い間使ってきたレンガとコンクリートによる手法では、今日の水問題を解決することは出来ません。私たちの水管理システムの核としての「緑のインフラストラクチャー」が21世紀へのアプローチとして認識されます。緑のインフラストラクチャーこそ、私たちが気候変動のもたらす結果に対処する、最良の、最も費用効果の高い、最も柔軟な手段です。私たちが意味する「緑のインフラストラクチャー」とは次のようなものです。

森林と小さな渓流が自然に水を濾過し不純物を取り除き、私たちにきれいな水を確保してくれる。
氾濫原や湿地帯のような自然景観が洪水を自然に貯めて、その水を川や地下水に再供給してくれる。
都市環境における自然の水システムは、豪雨による大水を自然的に管理することにより洪水や下水汚染を防ぎ、私たちが取水しより賢く水を使うことを助けてくれる。

コンクリート、水管、堤防、ダムなど土木的な方法だけに頼ってきた従来の方法と全く対照的に、21世紀の緑のインフラストラクチャーによる解決方法は費用が少なく、より効果的な代替案です。緑のインフラストラクチャーは自然景観を保護し再生し、無駄な水使用を防ぎ、自然と闘うのではなく自然と共に働きます。従来のインフラストラクチャーは建設や維持管理に多くの費用がかかり、環境を破壊し、時にはこれから取り掛かろうとしている問題をさらに悪化させることがあります。古くなって効率的でなくなった土木的に作られた構築物を修繕するよりも、破壊された自然景観を再生するほうが費用は少なく、より効果的なことが多々あります。

本日この会議に参加し皆さんにお話しする機会を与えられ、大変感謝しております。今日の公式の行事が終わったあと、皆さんと会ってお話しすることを楽しみにしています。

(訳:島田俊夫 長良川河口堰建設に反対する会・岐阜)