「日本の財政破綻を招く公共事業の大転換を求める緊急アピール」
徳島市の住民投票について各政党に訴える21世紀環境委員会声明
2000年1月23日
本日行われた徳島市の住民投票は、戦後史に残る大きな出来事となった。
この住民投票は、公共事業を問う日本で最初の住民投票だった。そして、徳島市民
は、困難とみられていた投票率50%という壁を乗り越え、圧倒的な反対票を投じて
建設省が計画した吉野川可動堰を拒否した。
今回の住民投票の意義は、むしろ、投票にいたる過程にあった。それは、徳島市民
が、専門家を招き、あるいは自ら研究を重ねて、建設省の可動堰建設の理由に多くの
疑問があることを証明したことだ。われわれの目には、建設省の論理は住民運動に
よって論破されている。
市民が主張したように、せいぜい寿命100年のコンクリートの可動堰より、250
年ももった第十堰の補修と堤防のかさ上げの方が、費用も安く、かけがえのない自然
を守り、しかも短かい期間で、洪水、分水、取水、潮止めなどの対策を完成すること
ができる。
建設省は、住民の指摘を認め、堰建設の理由の一つとして挙げていた水道・工業用
水の取水を断念するなど、計画は支離滅裂になっている。1000億円を超える費用
と10年の建設期間を考慮すれば、可動堰はムダな公共事業と断じざるをえない。そ
れを明かにした徳島市民に敬意を表する。
全国に目をむければ、疑問のある、あるいはムダだとはっきりしている公共事業が
いたるところで進行している。それは堰やダムばかりではない。利用者が多く見込め
ない高速道路であり、新幹線であり、空港であり、港湾であり、効果が疑わしい農業
構造改善事業である。
公共事業の暴走は、国と自治体を合わせて600兆を超える公的債務の主要な原因
となり、国と自治体の財政を破綻の淵に追い込んでいる。日本を誤らせ、破滅に追い
込んだのは、戦前は軍事費であり、現在は公共事業費である。
こうした危機の最中に、今回の住民投票で明らかになったのは、政治の不在だっ
た。主役は市民だった。
今や時代は官僚支配から、政治の時代に移っている。これまで公共事業は、計画か
ら個所付けまで、官僚の主導のもとで行われてきた。各政党は、徳島市の住民投票を
機に、市民の協力を得て、主義主張を超え、公共事業による「日本沈没」を未然に防
ぐため、国会冒頭より直ちに行動を起こすべきである。
具体的には、新しい法律の制定を含めて次ぎのような行動をただちにとるべきであ
る。
1)国会が、少なくとも大型公共事業については、計画の段階から一つひとつ審議
し、着工後も定期的に見直すよう法整備を行う。
2)建設計画の発表後、5年たっても着工されない公共事業は中止する(サンセッ
ト)法律を制定する。
3)国会はまた、道路法、河川法など個別事業法について、住民参加、地方分権、
補助金の縮減・廃止、規制緩和、環境評価などの各視点から抜本的な改正を行うべき
である。
4)公共事業の異常な膨張にお墨付きを与えている「全国総合開発計画」と「公共
投資基本計画」は廃止すべきである。ちなみに、全国総合開発計画は閣議決定、公共
投資基本計画にいたっては閣議了解という、国会、つまり国民を無視した非民主主義
的な手続きで策定されている。
5)今回の住民投票は、現地を知り尽くした現地市民の力量を証明した。これから
は一定の有権者(たとえば20%)の請求で、公共事業や市民の代替案の賛否を問う
住民投票が実施できるよう法整備を行うべきである。
「21世紀環境委員会」のメンバー:天野礼子(アウトドア・ライター)、五十嵐
敬喜(法政大学教授)、宇井純(沖縄大学教授)、内橋克人(評論家)、岡本厚(雑
誌『世界』編集長)、河野昭一(京都大学教授)、筑紫哲也(ジャーナリスト)、保
母武彦(島根大学教授)、水口憲哉(東京水産大学助教授)
当委員会は、全国のNGOの協力を得て、『緊急に中止すべき公共事業100のリス
ト』をまとめ、岩波ブックレットNo.
476『巨大公共事業』を出版するなど、多方面の活動を行っている。