“公共事業コントロール法”を再提出
2000年4月
五十嵐敬喜(法政大学教授・公共事業論)
天野礼子(「公共事業チェックを求めるNGOの会・405団体代表」)
民主党はこのたび“公共事業コントロール法”を再提出されることになっており、4月25日(火)
には全国のNGOに結集を呼びかけて、東京で公共事業シンポジウムを開催される予定です。
“公共事業コントロール法”は1997年3月に、五十嵐敬喜が天野らNGOに協力を求め作成し、
社民党と民主党に提案し、社民党(当時与党)は受けず、民主党が受けて法制化し、共産党が賛同し
たものの廃案となったものです。
この法案は、「国の公共事業は国会で審議する」ことを柱とし、現在、閣議に決定権のある国の公
共事業を国民の代表である国会議員に決定させることが出来るものです。
1994年に国会に、「公共事業チェック機構を実現する議員の会」(後に「公共事業チェックを実現
する議員の会」と改名)が超党派の国会議員によって誕生しました。当時は今とちがって、国会で
大きく議題となっている公共事業といえば長良川だけで、その長良川を取り上げる少数の自民党か
ら共産党までの議員が、長良川NGOの要請で、公共事業問題を勉強するために立ち上げ、五十嵐
敬喜を顧問として、当時「アメリカはダム開発をやめた」と発言していたアメリカの開墾局総裁を日
本に招いたりアメリカ視察を実行したりして、「法を作って公共事業を変える」に取り組んだのでし
た。
“公共事業コントロール法”は、そういったNGOと議員の勉強会から誕生したものです。
従って、法案が誕生すると、NGOは405団体を結集して、「“公共事業コントロール法”を成立
させる政治勢力にはどんな政党であれ力を貸そう」ということを決めて、今日まで公共事業の現場
での対省庁との闘い、各地でのシンポジウムなどを行い、公共事業への逆風を微力ですが吹かせ続
けてまいりました。
五十嵐と天野は、沖縄大学の宇井純、経済評論家の内橋克人、ジャーナリストの筑紫哲也、島根
大学の保母武彦らにも呼びかけて「21世紀環境委員会」をつくり、全国のNGOに協力を呼びかけて
「緊急に止めるべき公共事業100のリスト」を99年3月に作成し、内外のマスコミに大きく話題と
なりました。
その頃からでしょうか、巨大でしかも不要な中央からの、長良川や諫早に象徴される公共事業が、
地方自治体の財政を圧迫し、国の財政も困窮させていることが経済団体や自民党内からも問題とな
り、公共事業のバラまきがこの国の経済の足をひっぱっていることが広く知られるようになりまし
た。
また、北海道知事の「時のアセス」、橋本総理の「時のアセス」をきっかけに、地方自治体や中央で
も公共事業の見直しが、形ばかりのものがまだ多いが始まっています。
民主党は12月3日に、40名の議員の賛同があれば衆議院の調査室に命じることが出来ることに
なった“予備的調査”の制度を利用して、長良川河口堰、吉野川河口堰、川辺川ダム、徳山ダムや
中海干拓などの14項目に、国会の調査のメスを入れました。3月中旬にその調査結果が戻り、“公
共事業コントロール法”の再提出の準備も整って、このたび財政再建をまたぞろ公共事業の投入で
やろうとしていた小渕(森)政権に対抗して“公共事業コントロール法”が今、再提案されようと
しているわけです。
私たち人類には今、「21世紀を20世紀と同じ開発の時代にするのか」が問われており、日本以外
の開発先進国はみな、「21世紀を自然再生の世紀にする」ことを選択しつつあります。アメリカは
2001年にグレンキャニオンダムのゲートを上げ、開発時代の終了を宣言しようとしています。イ
ギリスでは公共事業のエージェンシー化、フランスでは地方分権化、ドイツでは川の再自然化、オ
ランダでは干拓地の最湿地化が進んでいます。
しかしわが国はどうでしょうか。
自民党は公共事業のバラまきをやめず、建設省は新河川法にうたったはずの「住民対話」と「環境
重視」を無視し、農水省は諫早や中海の干拓をやめようとしません。それに何より問題は、このま
ま自公保政権が続けば、2001年1月1日という記念すべき21世紀の入り口にわが国では、国土交
通省という、建設省・運輸省・国土庁・北海道開発局が一体となった7万人の巨大官庁が誕生してし
まうのです。
私たち二人は、この危機がほとんどの日本国民に知られていないことを何よりも憂えます。そし
てNGOやマスコミの皆さんがもっとこのことを騒いで下さらないことに空恐ろしさを感じていま
す。私たちを取材する外国メディアは、国家予算の4倍以上もの借金があるにもかかわらず、政府
がまだ不要な公共事業をやめないことに国民が怒らないことに驚きます。
どうか、この事実をもっと多くの人々に知らせ、そして目前にせまった衆議院選挙に多くの人が
行くように広めて下さい。
、このおそろしく歪んだ国の経済を救うのは公共事業を国民の手に戻し、不必要で自然破壊的な
巨大プロジェクトをやめさせて、必要で心の温まる仕事に人と金をまわせる世の中にするために、
“公共事業コントロール法”の成立が欠かせないと信じ、国会で初めて公共事業にメスが
入ったことをお知らせする次第です。