キオ川の奇跡
文 Mark Hume 写真 Nick Didlick
この一文は A RIVER NEVER SLEEPS のホームページの記事を要約したものです。
詳しくは下記のホームページをご覧下さい。
http://www.ariverneversleeps.com/backissues/june00/index.shtml



ブリティッシュコロンビア州の小さな川で研究をしている魚類学者が天然のサケの淡水での生存率が劇的に上昇したことに気付いた。

天然のサケの生息数が、海洋の条件の悪化により、減少しているこの時期に、北バンクーバー島のキオ川ではより大きく、よりたくさんの魚が育っている。
この発見により、政府はこの地方の他の川でも同様な手段を試す、数百万ドルの事業をやる気になった。

西海岸にサケを放流し、淡水での漁獲高を上昇させる計画には、向こう10年間に毎年1000万ドルを使う必要がある。

キオ川で調査をしている人々は施肥による強化技術で、支流における生存率の劇的な増加を確認した。

同時にカゲロウなども急増し、マス類も増加し、大型化した。

同僚のブルース・ワードが率いるキオ川のプロジェクトの監督をしている、ブリティッシュコロンビア州の漁業省のケン・アシュレイは「われわれは特効薬を見つけたようだ」と語る。

過去25年、ワード氏は北バンクーバー島から流れ出る茶色のキオ川で研究を続けてきた。

キオ川の河口にはフェンスがあって、川を上り下りする魚を計測することができるので、永らくサケ類の遡上の傾向の指標となってきた。

前世紀における多量の伐採によって、他の太平洋側の河川と同様に、サケは急激に減少した。スチールヘッドのメス魚はほとんどいなくなったので、生物学者は絶滅が不可避だと感じていた。

スチールヘッドの生存率は15%から4%に落ち、わずか100匹のメス魚が戻ってきただけだった。キオ川のスチールヘッドは過去のものになりつつあった。

昨年、科学者達はこの川で目覚ましい変化が生じたことに気がついた。も類が石の下部に付き、大量の昆虫が羽化し始めた。そして多くの銀マスやスチールヘッドの2歳サケが集まってきた。

対照河川である、隣接するワウクワアス川ではこのような変化は全くなかった。そしてキオ川では2歳サケが増えただけでなく、体長も大きくなって、海での生存率も増加した。

この春、科学者達は1999年がまぐれ当たりの年でないという証拠を得つつある。

「2年前は暗くて破滅寸前だった。北太平洋のサケは昔話になりつつあった。」「しかし、今は違う。これは大変エキサイティングだ。今、我々は魚の急増の一歩手前にいると思う。」とワード氏は語った。

彼の言う通り、漁業顧問のドン・マクビンと河川技術者のロイド・ブローはキオ川のフェンスから魚を網ですくって見せたくれた。

カリフォルニアからアラスカまでの川で、5月になると銀マスなどが遡上をはじめるが、ほとんどの川でその数は減る傾向にある。しかし、キオ川は別である。

昨年、キオ川の銀マスは53000匹と2倍になり、スチールヘッドも2000匹と2倍になった。5月中旬、マクビン氏は今年の遡上数についても強気の賭けをしている。

「私は100000匹の銀マスと3000匹のスチールヘッドを予想している」と彼は語った。彼は網一杯のたくましくて大きな魚を生け簀に放り込んだ。

隣接するワウクワアス川の銀マスに比べて、キオ川のは16%も重く、スチールヘッドの幼魚は50%重く、11%長かった。

キオ川のサケは今、海に下るところである。約2000匹ものスチールヘッドがマスなどに混じって、一晩でフェンスに入った。

マスは過去の平均の2倍の450gもあった。マスはカウントされてこなかったが繁栄している。

「ますはこの川のどこにでもいるし、捕獲が許されていたときより多いことははっきりしている」とマクビン氏は語る。

フェンスの上流ではサケがカゲロウを捕まえようと飛び跳ねていた。

「水生昆虫の増加が目立っていて、フェンスで仕事をしていても、虫を払いのけるために仕事ができないくらいだ」とマクビン氏は語った。

北太平洋岸では、急勾配な山とたくさんの雨量のせいで川の養分が非常に低く、昆虫の大量発生はまれである。川虫を得るためにはたくさんの石をひっくり返さねばならない。

キオ川では川虫はどの石にもへっついているように見える。水生昆虫も魚も同じ理由で繁栄している。林道の除去を含む、生息地回復作業は流れを安定化し、堆積物を減らした。生息地はかつて直線の放水路だったところに作り育てられた。

同時に革新的な施肥事業が栄養レベルを向上させた。大量のサケが遡上することによるチッソとリンという昔ながらの肥料に替える試みがなされた。

乱獲や川の劣化や海洋条件等の複合作用により、北太平洋の産卵サケの遡上は劇的に減少した。産卵後のサケの死体は分解され、流域の価値ある肥料となっていた。

このようなサケの遡上が減少したので、川はますます低栄養化した。水生植物も減り、昆虫も減ったので、小さな魚は飢えるようになった。魚の生存率は落ち込み、さらなる低栄養化をもたらした。

キオ川の生物学者は過去2年間に1トン以上の肥料を撒いた。その肥料は豆炭のような小さなブロック状であった。

技術者達はこの肥料を背負って運び、35kmの長さの川の浅瀬にばら撒いた。彼らは年に一度、春にこれを行った。「キオ川での成功はいろんなことの結合の結果だ。しかしその中でも施肥が鍵となっているようだ。施肥が今我々がここで体験していることの誘引となっている。」とワード氏は語る。

マクビン氏は最近、イギリスからブリティッシュコロンビアに越してきたが、イギリスの彼の同僚達は、彼がサケの川にチッソとリンを撒いていると聞いて驚いたという。

「向こうではこれを汚染というからね。でもここではうまくいっている。この結果には文句のつけようがない。」と彼は言う。

彼によれば、最終的な目標は昔のレベルまでサケの遡上を回復し、自然の施肥が生じるようにすることである。しかし、それまでは施肥はこの流域の回復のために非常に重要な役割を持つだろう。

ワード氏は川の底から肥料のブロックを拾い上げてこういった。「これ1個が1匹のサケの死骸に等しいんだ。」

河口のフェンスの上流ではブロー氏が、彼が作った湧き水の引き込み水路を見せてくれた。そこは倒木などで一杯で、森に囲まれた小さな湿地になっていた。虫が飛び交い、水没した枝にはサンショウウオが産卵し、水の中でも昆虫が羽化していた。

「この池ができてから4年になるが、自然に溶け込みつつある。今は何も手を加える必要がなく、自然のままにしている。」と彼は言う。

さらに上流では川岸に横たわる倒木が水たまりを作っていた。彼は浅瀬の真ん中に石を置いてもいた。それらの石の下流にはサケが群れていた。

生物学者が川で作業をしている間、森林サービス会社のバート・シモンズは伐採によって荒れた岸辺の森林を手入れしていた。

伐採が適切になされたなら、森林は30年で元のサイズにまで戻る。そのような木は川岸にしっかり根付き、100年に1度の洪水にも耐えられるように育つとシモンズ氏は言う。

川が健康を取り戻すために、岸辺の作業は川の流れでの作業と共同して進めなければならないと彼は言う。

キオ川のあちこちでいろんな方法が試された。そしてそれらが共同して打開策に結びついた。

橋の上から再生されたエリアを眺めるとワード氏は微笑まずにはいられない。「大変美しい眺めだ。私達には川の再生のやり方がわかった。問題は社会がそれを取り入れることに乗り気かどうかだ。」と彼は言う。

キオ川を再生し、再び生産性のある川にするのに約100万ドルかかった。ワード氏はブリティッシュコロンビアの10の河川でも同じ方法を用いて取り組んでみたいと考えている。

この件は今年の終わりに政府に提案されるだろう。


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