長良川河口堰問題が全国の公共事業を考える上でのテキストになっている


                                  伊藤達也(長良川河口堰住民訴訟・愛知 原告団事務局代表)

ここ数年、公共事業をめぐる環境が大きく変わりつつあります。つい先日も自民党を中 心とする与党の合意によって、全国233件の公共事業が見直されることになり、東海地方 の水資源開発事業関係では木曽川導水事業が中止されることになりました。

 2年前、矢作 川河口堰が止まった(驚くことに正式に事業が中止するのは、今回の見直しの中でだそう です)こととあわせ、当地方でも、公共事業の仕組みが大きく変わりつつあることを実感 させられます。

 そして、こうした動きを起こさせ、そして滞ることなく、より力強い運動へと向けさせ 続けているのは、まさに私達が現在、立ち向かっている長良川河口堰問題なのではないで しょうか。これは決して手前味噌的な理解ではなく、長良川河口堰問題の厳しさによって 建設省は公共事業に関わる時代の変化を学んでいるのでしょうし、マスコミは環境に配慮 した社会構築の必要性を訴え続けなければならなくなっているのです。そして市民は意見 を主張し続けることの大切さを知りつつあるのだと思います。

 だからこそ、長良川河口堰問題はなかなか解決しないのかもしれません。長良川で建設 省は学び、学んだことを他の事業で実践する限り、長良川河口堰問題はいつまでも学ぶた めのテキストであり続けてしまうからです。「長良川のようにならないために、吉野川も無 理しないでおこう」とか、「長良川で懲りたから、矢作川は止めにしよう」というのが、建 設省や愛知県の思考回路だったのではないでしょうか。

 でも、このことは長良川河口堰を捨石にしてもよいということを決して言っているので はありません。本来、テキストこそ、時代の変化にあわせて改訂されなければならないか らです。建設省をはじめ、関係官庁・自治体の方々には、是非長良川で多くのことを学ん でいただいて、早くテキストそのものを改訂できるようにがんばっていただきたいと思い ます。

 裁判所の方も現実から目をそらせることなく、ちゃんと見ていてくださいね。長良 川河口堰問題を解決しない限り、日本の公共事業に関わる問題、環境に関わる問題、地方 自治、住民参加に関わる問題は解決しません(本当は研究者の現実問題へのコミットの仕 方という大きな問題の解決も強く求められているのですが、天に唾する行為になってしま うのでカッコ書きにとどめておきます)。なぜならば長良川河口堰問題そのものがテキスト だからです。


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