世界銀行による「世界ダム委員会」とは?



WCD(World Commission on Dam)世界ダム委員会は、世界中のダムつくりに資金を提供してきた
世界銀行が1994年にアメリカ合衆国と共に中国の三峡ダムから撤退するなど変身した事をアピールす
るため、IUCN(国際自然保護連合)を中心に、国連の専門機関や各国政府、WWF(世界自然保護基金)、
インターナショナルリバーズネットワークなど、世界のNGO、民間団体、さらに建設業者、電力会社
など、ダムに関する利害関係者などの協力も得て、1998年に結成したものである。したがって、これ
らすべての構成員がもたらす最新の情報および研究成果を総合し、検討できるこの機関は学術的な面か
らも画期的なものといえよう。このWCDは世界銀行とIUCNが共同出資して設立した団体であるが、
両者からは独立した、あくまでも中立の機関である。WCDはこのような中立性と、高度な情報収集能
力に支えられ、活発な活動を展開している。ここではダムに関するあらゆる問題を取り扱い、世界のダ
ム建設について、その計画の立ち上げから建設、運営に至るまでの意志決定過程の検証などを行ってい
る。これらの結果を総合し、将来のダム建設に対する指針を提示するのがWCDの主な目的である。

 世界では今、ダムのあり方が問われている。すでにアメリカ合衆国やヨーロッパ諸国では、ダムや河
川工事が、自然を破壊するだけでなく、社会経済的に見ても莫大な損失を与える存在として、次々に壊
され、川に自然の流れを取り戻す工事が盛んに行われている。特に、西ヨーロッパ諸国では、河川を元
に戻すと公約すれば選挙に勝てるといわれるほど河川、ダムの再生工事が盛んである。WCDでもこの
問題に関する調査、公開ヒアリングなどを行い、情報収集にあたっている。

 特に、1999年5月10日から18日にかけて開かれた第7回、ラムサール条約国際会議では国際的な
ダムの見直し作業をすることが決定した。そこで、WCDは2000年6月までに、
1. 世界中の大規模ダムの効果や、環境、社会的な影響を含む再検証を行い、
2. 代替案と意思決定手続きの検証と模範例を指示し、
3. 国際的に通用するダム建設と運用のすべての間での意思決定のための基準とガイドラインの発表を
行う予定である。
この作業は大きく3つの活動、@世界の大規模ダムに関する約8つのケーススタディ、A約150もの
追加クロスチェック、B5つのテーマ別分析をもとに行われている。

日本のNGOも150のクロスチェックのために情報提供および、参加を呼びかけられており、その成
果は、国内ダム問題だけでなく、日本が出資する予定の海外ダム計画にも影響を及ぼすとおもわれる。

WCDは世界的規模のみならず、地域的な公開ヒアリングも積極的に推進しており、その地域ヒアリ
ングの一環として、来る2月26日、27日、WCDが主催しアジア経済開発銀行が後援する、東アジア
および東南アジアのダム関係者が一堂に会する会議が「東アジアと東南アジアの大きなダムとその代替
案」と銘打って、ベトナムのハノイで開かれる。日本からは天野礼子が「変化する制度と政策の枠組み」
という主題のパネルにおいて、ゲストスピーカーの一人としてこの会議に招かれている。天野は、「21
世紀の入り口に巨大官庁を誕生させる日本の河川政策と現状」というテーマで、現在の日本のダム、河
川行政政策と長良川を守る運動に象徴される日本の現状について講演する予定である。

ハノイの会議では長良川が、日本の建設省の行った“誤った河川行政“の最新の例として、世界各国
の参加者およびジャーナリストから注目を浴びるであろう。


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