集約的な水管理
現状処理から生態系の統制管理という新しい概念に移行したオランダデルタ

HLFサエージ
(1990年8月23日出版承認)
抜粋

水管理の方法は、現状を処理する事から生態系を統制、管理する方法へと変わった。これは都市景観プラン20(245−255)の中にも見られる新しい概念である。

オランダの特徴は「神が人を創り、オランダ人が彼らの土地を創った」という表現で端的に表す事ができる。この「土地を造成する」という行為が「この国の技術」となり、また、過去10年間に渡る大規模な開発によって、水との新しい付き合いが始まった。本文では2000年に渡る水との関係から学んだ教訓、過去10年間に起こった新しい概念の発達について、可能となる水との対応の仕方、の三点について幾つかの例を挙げて説明してみたい。

水との共存を果たすための挑戦

オランダの土地の大部分は河川デルタである。(図1)国土の一部は海面上にあるが、その主な土地(60%)は海面下に位置し、この様な土地で暮らせるのは人々の努力と行動のおかげに他ならない。(図2)2000年間で水文学は小規模から大規模へ、防御的から攻撃的へ、短期的から長期的へ、特定目的から複合目的へ、流れを塞き止める方法から管理する方法へその性格を替えた。(van Veen 1950,1953;Saeijs 1982a,1988)具体的には11世紀の海岸線に対する局地的な工事と早期的に行われた12世紀の良く整備された堤防建設プログラム、16世紀から始められた内陸部の湖の埋め立てと20世紀の大規模で複雑な土地の改造がその移行例である。(図2)前世紀に行われたツイダージプロジェクト(Zuiderzee project )(de jong and Roefs, 1983; Adriaanse et al.,1986)とデルタプロジェクト(Delta project)(Seijis and Bannik, 1978/,Saeijis,1982a; Knoester et al.,1983) からも明らかなようにオランダでは20世紀を大規模工事の世紀と呼ぶ事が出来る。この工事は必要だった。もしこれがなされなければ土地の侵食はオランダの重要な問題となっただろう。ツイダージプロジェクトの目的は安全性の確保、土地の埋め立て・管理、真水の貯蔵とコントロールであった。具体的には関連地域をダムと堤防で仕切られた13部門、または「区画」(4つのポルダーと9つの湖)まで分割する事である。(図3)一方デルタプロジェクトの目的は安全性の確保、水管理、淡水の貯蔵・管理、及び塩害対策である。つまり7つの河口を12に仕切り、塩水・淡水湖・潮の流れをコントロールできる河口となった。(Saeijis,1982b;Knoester et al.,1983;Saeijis,1986;Fig,4)土地の区画化という考えはこの仕切りを段階的に処理できる事を意味する。土地を区画する事によって、自然の本来持っている要素的な力をコントロールし、環境を特定の状態に持っていきやすくする事が可能となった。ではこの土地の区画化戦略とルールについて述べてみよう。

土地の区画化、そしてその後選択された特定の環境条件と新しいシステムの管理は生態的、経済的、社会的潜在性に対し影響を与えたことは今やはっきりしている。

干拓は土地の造成と同じくらいに重要か?

ではツイダージプロジェクトについて簡単に説明してみよう。(図3)当初、このプロジェクトは農業に重点が置かれていたが、(Wieringermeer,1930)すぐにその目標に広範囲の都市化(Noord−Oustplder, 1942)、レクリエーション、景観、自然が取り込まれた。ここでは2つの興味深い戦略が取られている。特定地域に凝縮される問題に関する戦略と交流する表層水に関する戦略である。まず第一の戦略はいわゆる緊急対策である。上流部の公害防止が(かなり)保証されない限り、有害物質の流れを規制しても、下流の公害の排出を減らす事は出来ない。

ラインとマース川下流域に見られる川底の汚染

1970年、ラインとマース川にとって最も重要な水の排出場所であるハーリングフリート(図4)が河口堰によって閉じられた。(Forguson and Wolff, 1983 )これによって河口付近は淡水の川と湖に変質した。この河口堰の閉鎖によって堆積物の増加が期待されたが、結局1980年にオランダはライン、ムゼール川のごみ捨て場と化し、1億平方メートルの有害性の高いヘドロが堆積してしまった。これらの取り除き作業のために必要と推定される費用は20億アメリカドルとされる。しかしカテル湖群(Lakes Ketel)イゼール湖の場合と同じ様に、この現象に関する良い副作用もある。つまり北海がこの汚染から守られたことである。
 この経験から導き出された教訓は他の国々にとっても興味深いだろう。すなわちもし、ダムの上流の川が深刻に汚染されたならば川の河口でも同じ様な汚染の蓄積が起こるということだ。汚染の蓄積は1つのダムで急激に起こるであろうが、結果的にはその他の地域もこのダムのように、生命を持たず、生態系システムの機能を果たせない状態になる。さらに、汚染された川底は汚染物質の貯蔵エリアとなり、これは、汚染の原因を取り去ったとしても汚染された川底がその後数十年汚染源となることを意味する。

選択による多様化

この「分割と規制戦略」はまた、デルタプロジェクトにも適用されているが、この適用をめぐっての議論とプロジェクトの実施方法はツイダージプロジェクトのそれとはかなり異なる。(Saeijs et al.,1983)ツイダージプロジェクトで実施された土地の分割化の契機は基本的には農業の振興にあるが、デルタプロジェクトでは水力工学的見地からこのプロジェクトを検討する事は単なる手段でしかなかった。(図4)実質的にはこれにより多くの異なったタイプの環境を作り出すべく、区画化が実行に移された。以前は潮が行き来していた7つの河口はそれぞれ淡水、汽水域または塩水の状態に変質した。ある河口は潮の満ち干きの量を減らされ、流れが緩やかになり、制御しうる干潟へと変貌した。

塩水湖、果敢な実験

この戦略について細かく議論する事は出来そうにもない。しかし、これらの細かい点については読者は次の文献を参照する事が出来るからである。(Saeija,1982a,1988;Nienhuis,1983)その1つの例としてグレベリンゲンダム(Grevelingendam)(1968)とブルーワースダム(Brouwersdam)(1971)の完成時に形成されたグレベリンゲン湖(Lake Grevelingen)について述べてみよう。(Saeijis and Stortelder,1982;Nienhuis, 1989)結果的にグレベリン河口は、今では植物が育つ、所々が浅瀬と砂地で囲まれた塩水湖に変わった。(>16gCl 1のマイナス1乗)湖の底は汚染がないと考えられ、夏でも湖水は透明である。(Secchiの分類では>10m)湖の主な生産物の量も比較的高多く、増え続けている。窒素とりんの濃縮は見られるものの、富栄養化から来る問題は起こっていない。湖の生態系は比較的短期間で湖の新しい状況に適合した。生態系社会を構成する生物は現在多様で、許容できる範囲での安定を達成し、この湖は国際的な評判を持った湿地として現在発展を続けている。これがどの様に起こり、どの様に実行されたのだろうか。
 1971年オランダ国民は水門を閉じた結果生じた事態に直面した。夜間の潮の満ち引きがが失われた影響として、活発で健全な河口の生態系社会が危険にさらされたのである。その時点では海中に沈まなくなった潮干帯の地域と水深8メートルを超える場所にあるすべての形態の生物が死に絶えたのである。将来についての悲観的な予想がなされた。しかし、この状態を打破するために「塩水湖に最も望ましい状態を作り、自然に本来の自然を取り戻させる。」提案がなされた。(Saeijis 1982a)塩水湖の生態系の特質と生態系の成立過程についてはあまり知られていなかったが、「最高の専門的判断」と「適合的環境管理」(Holling 1980)が適用され、その最終結果は我々を納得させるものであった。多くの部分は自然にそのまま任せ、状況をコントロールすべき場所のみにそれぞれの対策がとられた。管理の主な内容は海からの栄養素や生物のコントロールに加えて、水位、水の滞留時間、塩度、層化のコントロールであった。この結果、海との関係が修復された。ここで起こった展開はシュミレーションモデル等の技術を使い、注意深く研究、監視された。そしてこれにより生態系との「対話」が可能となった。これが人間が環境に制御を加えるという条件下での自然の自発的な展開を促す戦略である。これには時期を逸しない選択、迅速な意志決定プロセスがとても重要である。このアプローチは後に水力工学の設計につながることになった。例えばブルーワースダムの水門は水の流入、流出の両方が出来るようにしなければならなくなったし、この水門はまた、水位、塩度、酸素をコントロールするために十分な許容量があることが要求された。そしてさらに有機物質が水門を通して海と自由に行き来できることが要求されたのである。

 これらの経験により、ただ一つの組織、例えば中央政府だけが管理するのではなく、すべての関係当局が関わるバランスの取れた管理方法がとられることがこのアプローチにとって重要であることがわかって来た。(Seijis,1982b)

 前世紀の経験からもたらされた最も重要な結論は、「このような工学的プロジェクトの設計や管理は、単一の目的(例えば安全のため、水の貯蔵、または給水)のために行われるべきでない」と言うことである。風景の中に起こってくる変化のプロセスの重要性を認識する必要があるのだ。変わりつつある条件を利用しよう!それにより、湿地管理に対する人間の役割がより利益をもたらすものとなるはずである。このことは海岸線の工学計画だけでなく、他の計画、例えば河川水域の堰にも応用できる。

 現状処理から生態系管理システムへ

20年間にわたって行われた革命的開発はまだ決して終わっていない。(Saijis, 1988)ここで、過去30年間にわたる開発について概説してみたい。これは大まかな動向を見るうえで参考となるだろう。第2次大戦後、復興と経済拡大に重点が置かれ、これに関連して1968年オランダ政府は最初の水管理政策を発表した。(交通、公共事業省,1968)この政策の根本理念はどこにおいても、いかなる時でも水の需要に応えることが出来なければならないことであった。そのため、家庭用、産業用水の供給、排水、塩害対策、またこの政策を実行するための基幹設備の整備に重点が置かれた。地下水は飲料水の基本的供給源と見なされた。とにかく水は人間の利用に供するためだけの資源だったのである。輸送手段(船の航行と汚染)としての水の機能については言及されなかったし、費用対効果分析も加えられなかった。水の品質は受け入れることが出来ないほどの「高レベルの無機物」(塩)と「有機物」(酸素消費物質)と言う見地で定義された。この中で塩水は「無用の」「品質の悪い」ものとさえみなされた。基幹整備の根底として塩害防止とライン川(イゼール湖と南西オランダの水の供給源)を塩から守るための対策が必要であったことが挙げられる。そのためには砂丘と新しいグレベリンゲン(Grevelingen)湖に新しい貯水池を作らなければならなかった。これにかかった費用は推定で15億アメリカドルであったとされる。

 1971年、「表層水汚染法」が議会を通過した。この法律の目的は、人類による水の安全な使用が危ぶまれてきたため、汚染から環境を保護しようというものである。
 
 水質に関する政策は複数年に渡る3つの啓発的な計画において実施された。(IMP 1974,1979,1982)これらの3つのプロジェクトは水質政策を広く知らしめることに非常に重要な貢献をした。この結果、様々な水の関係機関がより緊密に連携し、お互いの経験から学ぶことができるようになった。その基本的理念は予防的、修復的意味の水質汚染対策である。最初のIMP(交通、公共事業省、1975)の問題は酸素消費物質の過剰にあることが突き止められた。提案されたこの問題への対策は排水システムからの排出物を処理するのと同じ方法でその酸素消費物質を処理することであった。この時それぞれの地域での酸素含有量を示す水質地図がこのレポートに付与された。

第2IMP(交通公共事業省、1981)にはまた、「危険または危険の疑いのある物質リスト」が加えられた。非酸素消費物質の浄化に関連する知識が増えるに従って、それがこの政策文書に反映され、酸素、りん酸、重金属、有機的汚染物質の4つを取り上げた水質地図が作られた。

水質政策と環境管理政策との関係を更に包括的に詳しく述べているのが第3IMP(交通公共事業省、1986)レポートである。ここでは始めて機能主導、環境重視の考え方が取り入れられ、新しい問題、例えば湖底、川底の汚染問題、汚染源が特定できない公害問題等について話し合われた。

 表層水は生態系であり、そこでは物理的、化学的、生物学的過程と共に、有機生物もこの中で重要な役割を担っているいう認識が広がって来た。この新たな考え方によりこれらの関係はより論理的で、一貫性のある方法で説明ができるようになった。そして、政策を更に発展させるには、このアプローチを広く行うだけでなく、水質、水量政策を統合して行う必要がある事が明らかとなった。さらに水管理政策のためには生態系のより強力な基盤を発達させることも必要不可欠となった。そこで水管理第2政策文書(1984)(交通公共事業省、1985)で、様々な点を統合するための1つの試みが行われた。この文書はモデル研究―オランダ水管理政策分析、(1984)(匿名、1982 Pulles and Sprong,1984)の結果に基づいている。この1984年文書の目的は質と量の水管理に関する政府の主な項目に対する解釈規定である。次にこの文書の主な部分を説明しよう。

−水システム全体が一番重要である。システム全体とはこのシステムに関連するすべてのもの、例えば、水、湖底と川底、自然堤防と人工堤防、 干潟の湿地や泥地などやそれに含まれる全ての生物と物質を指す。

−調和を保った政策決定プロセスの一環として水管理のあらゆる項目が取り入れられた。その中ではあらゆる相関関係が考慮に入れられている。この中で項目として述べられているのは安全性、農業、住居、産業、船舶輸送、漁業、レクリエーション、風景、自然についてである。

−費用対効果分析も加えられた。

−個々のシステムから出された安全性に関する要望や可能性のある提案はすべて同じレベルで取り扱われ、責任ある選択がなされた。

−水はもはや単なる原材料、または輸送手段ではなく、正しく機能する水の生態系の重要性も認められた。IMPレポートで規定されたように、水質に関する定義はこの政策文書の中で統合されている。すなわち「水質と水量の関係は地下水と表層水のように相互に関連している。」とされている。

−また、湖、河口、海などの塩水システムなども注目された。主な基幹設備(主な内陸の淡水、沿岸部や北海の塩水)はリックスヲーターシュタット(Rijkswaterstaat)(政府の水機関)によって管理されているが、これらは地方の水機関によって運営されている地域的機関設備とは区別されている。

−文書の中で問題とされたものは、予想される干ばつの結果起こる地域的水不足、境界間で起こる汚染と同時に起こる驚くべき水質悪化、湖底や川底の水質悪化、くみ上げによる地下水位の低下、地下水汚染であり、これらは最初に取り組むべき問題と決定された。
 結果的に、結論は1968年に出されたものと異なった。南北間の水の接続、イゼール川の運河化、イゼール川からの水供給、オード マース川(Riiver Oude Maas)の閉鎖等、1968年に計画されたさまざまな対策がこの文書からははずされた。

これらの計画の削除により約1500万USドルが節約でき、また、主な問題は既存の基幹設備の小規模な操業と管理によって解決できることがわかった。地方の水機関がかかわる計画のうち約50の計画が効果的と見なされているが、2億5000万USドルの投資でこの小さな計画からもたらされる直接の利益は1年で5000万から1億5000万usドルになるだろう。

進歩の必要性

つまり、水管理を成功させるためには様々な要因の相関関係を考慮に入れなければならない。集約的水管理は、それに関わる湖底、川底、自然堤防、地下水など全ての水系(もしくは水が重要な役割を持つ土地も含む。)を人間の利益と関連した完結した一つの統合体としてとらえ総合的に管理していくことを目的としている。ではこの集約的水管理について以下にまとめる。

−水系は1つの完結した統合体として機能する。であるから政策は多様性に対して解釈の一貫性を持たなければならない。
−水系をコントロールするためには多くの方法が考えられる。(水位、塩化、滞留時間、集水、取水、輸送、水の浸透、塩水と淡水の分離、堰の建設などなど。)しかしながら、これらの方法の適用には十分な考慮がなされなければならない。なぜならば自然とは限界を持った生態系であり、その一部を使用するからである。

−多くの関係者が水管理に関っているが、それらの者はそれぞれ異なった水に対する需要を持ち、時にはそれらは互いに対立するかもしれない。そこで、彼らの関係を考慮しながら調和の取れた方法で計画の利益と実現可能性を踏まえ決定を下していかなければならない。

−水と水に付属する全てのものは風景の中でも移りゆくものである。今日はここにあったものが、明日には移動し、管理機関の変更に大きく影響される。そして水系の一カ所における介入が非常に広くその水質や水利用に影響を与える。ある政策が実施されている地域には地方の水管理局だけでなく、中央政府、州政府が関わった様々な管理体に対し義務と責任が付与されている。だから、集約的水管理においてはこれらの独立した政策地域を調整する方法が盛り込まれていなければならない。すなわちこのような独立した関係機関による政策、管理における調整は、それぞれの水系における管理的合意に達するように焦点を絞ることである。それから必要とされる当局によって計画が実施されるのであるが、そこにおいてもそれぞれの義務と管轄は守られなければならない。
 上記したことの意味はすなわち、実際の水系はその様相や機能、行政サイドや管理体制との調和も含め、統合的な水管理における一番中心となる要素だということである。だからこのようなアプローチにおいては地方ごとに大きな政策の違いがあることになる。すべての個々の水系は異なった特長、過程を持ち、従って異なった機能、排出状況を持つことになる。であるからさしあたり、国家としての展望を見失わないようにする注意が必要である。すなわち水系を守るため、国の基準にもとづいた水管理に対する国のアプローチが必要であることは強調されなければならない。

2000年までオランダ水管理のとる過程

 現在オランダではブラントランド委員会(Brundland)の見解が広く受け入れられており、その中でも維持可能な開発の原理は経済的、生態学的戦略の中心軸となっているが、これは水管理戦略から導き出された結果である。この水管理政策に関する文書は集約的水管理をどの様に「作業項目」として指定するかを明示している。1990年から1995年にかけて計画された水管理の目的は4つのテーマに分類され、15の作業項目が打ち出された。

 テーマ1 公害防止
 作業項目 1 酸素消費物質 2 栄養素 3 重金属 4 有機的微量汚染物質 5 河川、運河、湖等の底 6 災害

 テーマ2 土地利用
 作業項目 7 土手、干潟との境目 8 水系の再生

 テーマ3 コントロール
 作業項目 9 水供給 10 排水 11 地下水

 テーマ4 組織と手段
 作業項目 12 行政 13 合法的、基幹設備的手段 14 財政 15 国際的協議

 この作業項目は1995年において達成すべき目的、目標と解釈された。例えば、作業項目4は「表層水における有機的微小公害物質の量を1989年の数値の少なくとも90%の削減」。であり、1995年の目標はこの物質の約50%の削減、そしてその他多くの汚染物質の90%削減である。

世界の環境問題の中心、河川集水域システムの破壊

 最後に私は世界の主たる環境問題、すなわちライン川、ナイル川、ガンジス川、ブラマプトラ川(Bramaputorah)パール川(Pearl)オリノコ川、パラナ川(Paranah)、アマゾン川で見られる河川集水域の破壊とそれに対する闘いに焦点を当ててみたい。これらすべての河川とそれらの支流の集水域には深刻な問題がある。上述のデルタ地域で提示した統合的計画と開発の方法は完結した河川の集水域にも適応できるはずである。河川に対する需要と要求は3つに分類でき、それらは安全性に対する要求、利用者からの需要、河川システムそのものに対する需要である。

 その地域の人々の安全性への要求に関しては予想される安全基準が導入され、これに基づいて安全性が維持されるべきである。またこれが規制と開発における境界条件となる。ここに関連する事項は主に洪水、侵食の防止と公害に関連した公衆衛生である。

 利用者からの河川に対する需要としては林業、輸送と航行、農業、土地の埋め立て、灌漑、排水、漁業、堆積物の処理、生水の貯蔵、電気、排水の浄化、自然保護などがリストアップされた。

 利用者による河川の使用に関する需要は大きく2分される。それらは河川地域と数多くの河川ゾーンに対する要求、及び河川の所有物つまり物理的、科学的、生物的な混合物である。河川利用に関する認識が高まると、その地域に対する需要も高まり、同時にその機能間における対立も高まることになった。

 河川の利用に関する政策分析の結果に関係なく、またこの分析にもとづいた規制と開発プログラムにも関係なく、河川利用に関する維持可能な開発を保持していくための2つの大きな原則がある。1つ目は「規制中もしくは規制後も川からの水と堆積物は海に排出し続けるべきである。」、2つ目の原則は「集水域を含んだ河川の生態系を維持するべきである。」である。これら2つの原則を尊重することで自然の長期にわたる使用が確保される。

 政策分析を併用した統合的水系管理アプローチは一貫性を持ってすれば短期的にも長期的にも大変有効な意志決定手段であることが分かった。これに類似、匹敵する方法によって大規模な河川水域の複雑な問題が解決できる。

 この例としてアマゾン川水域がある。その幾つかの支流、堰、人造湖が発電のために造られ、さらに多くの計画が立てられている。河川流域に関わるすべての堰(もちろん計画が持ち上がっているもの)や河川に関わる利害関係全てを考慮に入れた河川の統合的アプローチがなければ、長期に渡る生態系へのインパクトや費用対効果などにおいて悲惨な状況を迎えることは避けられない。また、政策分析に基づく注意深い、バランスの取れた政策立案過程なくしてアマゾン川流域の支流に投資し新たな堰を作ることを正当化することはできない。どこの熱帯雨林帯も同様な深刻な問題にさらされている。すなわちそこではすべての機能が危険にさらされているからだ。

 ナイル川流域はもう一つの湿地帯である。ここではオランダのポーンアプローチ(PAWN)に匹敵する包括的で時代に即した水開発、水利用、水に依存した土地利用における政策を選択することで利益がもたらされる。これに関してここでは深く記述しないが、エジプトには余剰の汽水域の水、海岸の岩礁やその水を有効に利用している例がもう1つある。エジプトは関係地域の塩水と汽水域水を利用して「ゴールデンライン」と呼ばれる海岸地帯を造ることが出来る。しかし、この計画には思い切った考え方、行動が必要である。なぜならこれは本当に挑戦であるからだ。つまり農業目的のためにナイルデルタの岩礁を埋め立てる、もしくは淡水湖を作り出す代わりに、デルタ地帯の特性を生かし、これらを統制された河口の生態系システムとして管理する決定を下すのである。とにかく砂漠を灌漑しての淡水の使用については多くの範囲がある。

 もう一つの提案は今、エジプトからナイルのロゼッタ(Rosetta)の支流を通る、いわゆる10%の利用価値のないと言われている汽水域水を利用して、例えばナイルデルタの西、東または浅い海岸地帯に新しい生産性の高い汽水域と塩水の岩礁、および塩水湖を造るのはどうか。

 つまり私の提案をまとめると、土地の埋め立てに土を使う代わりに水を使ったらどうだろうか。 それも淡水の代わりに塩水や汽水域水を使うのである。それのどこがいけないのか。

 世界ではさらに多くの、小規模、大規模なこのアプローチの応用が可能である。ここでの主要なメッセ―ジは人間は湿地で積極的で前向き役割を担うことが出来るということを強調することである。そうでなければ他の誰が水をコントロールし、導き、開発を規制することができるというのか。