グレンキャニオンダム破壊に関する市民環境アセスメント(CEA)
中間報告 2000年 秋


この中間報告は長良川DAY2001の海外ゲストとして来日されたデヴィッド・ウェグナー氏より
長良川のWWFの「生きている水環境キャンペーン」の参考として提供されたものです。


作成
グレンキャニオン協会
PO BOX 1925 Flagstaff、Arizona 86002


2000年10月グレンキャニオンダム破壊に関する市民環境アセスメント中間報告

グレンキャニオンダムの影響、およびダム破壊によってもたらされる潜在的影響に関するグレンキャニオン市民環境アセスメント(CEA)の中間報告に興味を頂き感謝します。CEAは非営利団体{501(3)}であるグレンキャニオン協会のプロジェクトであります。わが協会は基金と会員からの寄付でまかなわれており、その会員総数は現在1400に達する勢いである。

グレンキャニオンダム撤去に関する提案はグレンキャニオン協会が行う以上にこの問題に対し、はるかに厳格に研究を深め、広く見なおされる必要があるだろう。CEAは単に包括的な環境の見なおしをするための役割を担うことを意図しているのではなく、むしろ、環境アセスメントを手続き過程の一段階と見ている。CEAの目的はダム破壊、および代替案的措置とてのパウエル貯水池の排水も視野に入れた、グレンキャニオンダムの運営に関する包括的な環境に及ぼす影響に関する研究(EIS)を広く市民に知らせ、この研究を正当化するため、市民の支持を得る事である。

しかしながら、1996年に開墾局(BOR)によって完成されたダム運営に関するEISの中に、代替案としてのダム破壊のアイデアを市民に知らせることはなかった。ダム破壊を示唆する市民の声はEISの提案する手続きの範囲外に在るものとして拒否された。グレンキャニオン協会はアメリカ市民がグレンキャニオンダムを長期的に運営することによって環境が受ける被害がパウエル貯水池からもたらされる短期的利益を超えるものかどうか決断すべきだと信じている。この中間報告書はグレンキャニオン協会研究委員会によってダム運営が与える影響、ダム破壊、パウエル貯水池の排水による潜在的影響に焦点を当ててたものである。各研究に関する完全版はコピー費と送料で手に入れることができる。各研究報告書のリストについては19ページ参照。

この文書は来る2001年春に開催予定の市民的視野に立ったミーティングに備えて市民に提供される。これらのミーティングは一般の意見を集め、CEA文書の草案、および決定稿に記述される内容および問題点の定義にこれらの意見を取り込むことを意図したものである。会議の日程の通知を希望される方はグレンキャニオン協会まで連絡を。

われわれは中間報告に関するあなた方の意見を広く募集します。意見を下記の住所に送付ください。

われわれはこの前例のない、市民がスポンサーになった運動に対するあなたの意見を歓迎し、重要なものとして受け入れます。この文書を熟読の後、意見をお送りください。この過程にとって市民参加は不可欠です。



目次

行動目的と必要性。

環境問題
・ 水の損失
・ 体積
・ 塩度
・ 生態系
O 一般的環境
O ダムに予定される利益
O 野生生物、魚に対する影響
・ 健康問題
・ レクリエーション
・ ダムの安全性
・ 水供給
・ 電力供給
・ アメリカ原住民問題
O 文化
O 経済的影響

経済
・ グレンキャニオンダムの費用
・ 貯水池の排水による影響
・ 地域の現行経済


行動目的と必要性

グレンキャニオンダムが1963年に完成して以来、コロラド川の水がパウエル湖と正式に呼ばれる貯水池を満たし始めるにつれて、南ユタのグレンキャニオンは浸水した。「湖」という用語が自然水の総体を示し、「貯水池」がダムによって形成された人工的なものであるので、パウエル湖はこの文書の中ではパウエル貯水池として記述される。

グレンキャニオンの浸水は悲劇的な環境の損失であると多くの人々は考えている。しかし、グレンキャニオンダム建設が開始された1950年代後半、環境に関する法律はまったく存在しなかった。また、ダム建設や水管理に関して論争する機会もありえなかった。

今日では環境の著しい変化の後にその生存が危ぶまれるようになった種類を再生、保護するための1973年の絶滅危惧種法がある。1972年の清浄な水に関する法律では水質を悪化させる影響の排除または低減を義務づけている。また、文化的な保護法もある。パウエル貯水池によって水没する考古学的、歴史的資源を保護するための考古学的、歴史的保護法などがこれである。

もし環境に関する関心が今ほどあり、市民参加も活発に行われ、これらの法律が存在したならば、グレンキャニオンダムは現在建設されていなかっただろうとする考えにはほとんどの人々が同意するであろう。

1963年の完成に伴って、グレンキャニオンダムは電力供給量の最大化、上流にある浅瀬でレクリエーション活動が出来るよう、操業されたが、このとき、グランドキャニオン国立公園を通るコロラド川下流にダムが与える影響についてはほとんど注意が払われなかった。しかし、この影響は甚大であった。ピーク時の電力需要を満たすため、タービンに供給される水流は激しく変動し、一時間に1000立方フィート/秒(CFS)から31500立方フィート/秒もの変化をきたす。ダムから放流された清浄で、堆積物のない水がグランドキャニオンから海岸にかけての土地を浸食していった。

1980年代までに、グランドキャニオン内の水生生物居住地にもたらされた壊滅的ダメージに対する市民の不満はピークに達した。この声に対応して、内務省の長官は開墾局にグレンキャニオンダムの操業に関するEISの実施を要請した。グレンキャニオンダムの運営に関する包括的な環境に及ぼす影響に関する研究(EIS)はダムに関する調査を徹底的に、厳格に執り行った。しかしながら、EISはダム破壊を代替案の一部として考える事を拒否する開墾局(BOR)の限られた視野の中で行われた。また、市民はグレンキャニオンダム操業により与えられた環境に対する影響が貯水池からもたらされる利益を上回るものかどうかを決定する権利を奪われた。

一方、グレンキャニオンダムの科学的な影響、およびダム破壊によってもたらされる潜在的影響に関するグレンキャニオン市民環境アセスメント(CEA)の焦点はダム破壊も視野に入れた、ダムおよび水管理に対して、以前に決定された事項を再検証することである。

グレンキャニオンダムはコロラド川保存法の根幹として建造された。この法律には6項目の目的がある。
すなわち、1、水流規制、2、水の貯蔵、3、コロラド川に関する同意に基づく水の配分、4、不毛な土地の開墾、5、洪水管理、6、発電である。今日、われわれはダムがその当初の目的を有効に満たしているか、現在ダムによって起こされた環境の変化はわれわれの当初の目標の許容範囲内にあるかどうかを自問自答しなければならない。


環境問題

水の損失

グレンキャニオンダムは合衆国低集水域における水供給の確保をその目的の一部にもって建設された。しかしながら蒸発と河岸の漏水により水管理システムはかなりの損失を伴った。実際、1963年にはこの蒸発と漏水によって貯水池にためられた水以上の水が失われた。もしも貯水池がなければ川の水を川の流れとして、飲料水として、コロラド川デルタの生態系システム再生のため、自由に使用できたはずである。


● パウエル貯水池の本来の総貯水量は2700万エーカー/フィート(AF)である。
● パウエル貯水池は蒸発により年に57万エーカー/フィート(AF)失っている。パウエル貯水池完成以前のダム周辺の水蒸発量は推定で10万2000エーカー/フィート(AF)である。
● この差はソルトレイクシティへの水供給を賄うに十分である。
● 蒸発した水量はソルトレークシティの水道料金に換算すると2億4800万ドルの価値がある。
● もし蒸発する57万エーカー/フィート(AF)の10%がメキシコ国境に流れれば、デルタ地帯の荒廃が修復されるであろう。
● 1963年から蒸発によって失われた水の遡及的な損失量は1963年で2千141万エーカー/フィート(AF)である。
● 貯水池の水は周辺の多穴質の土壌に吸い込まれる。グレンキャニオンダムが建設されてから今日までの河岸の漏水による可遡及的な水の損害は1000万エーカー/フィート(AF)である。
● パウエル貯水池建設以来、蒸発、漏水による可遡及的な水の損失は3000万エーカー/フィート(AF)以上または、河川の水量の2.25年分以上である。


堆積物

「飲むには濃く、耕すには薄い。」これがコロラド川に堆積した土壌を形容する際の昔からの表現である。実際、コロラド川はスペイン人の探検家がコロラド川周辺にある色とりどりの砂岩や他の岩々からもたらされる堆積物にちなんで名づけた。堆積物は下流に運ばれ、コレツ海河口に砂州、河川丘陵や巨大なデルタ地帯を作る。堆積物は野菜畑や野生生物の住処となる土地の礎壌となる。

今日ダムは以前、川に流れていた広大な量の堆積物や栄養素の流出を妨げている。ダムに溜まった堆積物が支流の堆積作用に変化をもたらし、水の流れを変えてしまった。ダムは土砂の堆積により最終的には発電、洪水管理および開墾を目的とした使用が不可能となる。

● ダム建設以前、コロラド川は1年に600〜1800万トンの堆積物をグランドキャニオンを通して運搬していた。

● グレンキャニオンダムは以前運搬されていた堆積物の85%の移動を阻害し、それゆえに、海岸や自然の生息地に必要な多量の堆積物や栄養素を奪った。
● グランドキャニオンの様々な堆積物に関する環境問題を軽減するため、1996年にダムが完成する以前、春に放水した量の半分の水を、流れをコントロールしてグレンキャニオンに通した。この実験的な洪水は新しい堆積を生まず、むしろ、水底にそれが溜まった。ほとんどの堆積物はダムが通常業務に戻って後1年以内に洗い流された。この実験はある意味では成功したが、長期的な解決策とはなり得なかった。
● 堆積物により、ダムは93万2000エーカー/フィート(AF)の貯水容量をすでに失っている。最終的には堆積物がダムの発電、洪水管理、開墾作業を阻害するだろう。
● 将来的な堆積物運搬率から考えると200―800年で貯水池は完全に堆積物で満たされる。発電所の取水はすぐに妨げられ、ダムの操業を続けるためには広範囲の改修が必要である。
● 堆積作用により、上流は貯水池の位置以上に高くなった。堆積作用はサンホアン川やカタラクトキャニオンのような支流に悪影響を与えた。
● 貯水池がなければ、ダム上流の主水路の堆積物は2年から6年のうちに放出されるだろう。

塩度

この地域の地質学的歴史によって、コロラド川の塩度は高く、これを超える川はアメリカ合衆国にはほとんど存在しない。内陸の海で洪水が起こるたび、塩度のある堆積物を盛り上がった台地に残しながら海が後退し、蒸発した跡としての、多くの堆積作用によって作られた地域がある。雨水と雪解け水がこの塩の堆積物から塩を流し、川に運んだ。EPAの試算によると下流の集水域の塩分は334ppmであった。

水を資源とする河川開発は塩度を飛躍的にあげた。コロラド川周辺の貯水池からの水の蒸発により、塩度は12%上昇した。この高度の塩分は法律的、経済的、生態学的に重要な問題となっている。

● 水が蒸発するたび塩分が残っていくため、貯水池の表水の蒸発にともなって塩水が増加した。
● 灌漑用水が塩分を含む土壌に接触し、地下水を通って川に流れることにより、灌漑用水の塩度も上昇した。
● 高塩度はまた、水使用者にとっても、家電製品、自動車の冷却システム等に経済的被害を与え、清掃効率の悪化、農産物の生産量の低下をもたらし、メキシコに対する水需要に対応するための塩分除去対策の必要性が増した。
● 塩度の上昇に伴い、消費者にかかる塩度除去費用は年に25000ドルである。
● パウエル貯水池の水蒸発により塩度は年に26.5ppm上昇する。
● コロラド川の生物環境に対する影響を調べた研究は存在しないが、塩度の上昇は最後には環境悪化の原因となるだろう。


生態系

ダムが及ぼすグレンキャニオン下流域の生態系に対する影響は堆積物と栄養素の減少、水流の季節的変動、下流域に流される水流の温度の変化、非原住種の進入である。
この川に見られる相対的な孤立性と、歴史的な独自性によりコロラド川は北アメリカでもっとも興味深い魚種の居住地の一つである。ここにすむ数種の魚はおよそ2000年以上にわたりこの地に生息している。この極端に過酷な状況に対応するための適応により、これらは、大きな流線型の魚体と大きなひれ、太い皮を身につけた。ダムによって変化した最近の状況により、多くのコロラド原種の魚が絶滅に追いこまれた。

これに加えて、コロラド川下流域およびこの地域に近いコレツ海に住む淡水魚、鳥、および他の動物も水、堆積物、栄養素の減少をその一つの理由としてその存在を脅かされているか、絶滅の危機に瀕している。

一般的環境

● グレンキャニオンダムはコロラド川を通るグレンキャニオン一帯の川の生態系を徹底的に変えてしまった。
● ダム建設以前、コロラド川の温度は季節的に変わり、華氏40度から80度の差があった。貯水池の冷たく、深い部分から水が放出されるため、ダムから現在放流される水の温度は常に華氏46度である。
● ダム建設以前、春の定期的な洪水により、堆積物が多くの原住種の魚、両生類、昆虫に運ばれ、彼らの居住地となっていたが、現在、堆積物が貯水池に溜まるために水は透明である。
● ダムはグレンキャニオンに届くはずの荒い有機物の量を減らし、特に、原住種の生存に必要なレベルの栄養素を大量に奪った。
● 川辺を源とする春の洪水の消失により、非原住種が川辺に茂り、原住種を圧迫している。
● 大量放水は自然の河川の流れと数百種の原住種の生息地を水没させた。

グレンキャニオンダムに予定される利益

冷たく、透明で、水の流れを規制されたダムからの水流はある種の居住地を作り出す。しかし、その場所のほとんどは非原住種、原住種と敵対する種か、あるいは現住種を餌とする生物のためのものである。ダムが定まった期間しか存在しないのと同じく、ダムよってもたらされるどの利益も短期間のものである。

● グレンキャニオンダムからもたらされる冷たく、透明な水は藻類を繁殖させ、それゆえ、川辺の食物連鎖が非原住種を支えるものに変形してしまった。
● 春洪水を規制したことで川辺の環境が安定し、タマリスクなどの非原住種の生息、拡大が可能となった。
● ダム建設以前には180種の鳥類の存在がグレンキャニオンで確認されたが、1987年には
  303種の異なった鳥類が目撃された。
● 1996年グレンキャニオンダムの運営に関する包括的な環境に及ぼす影響に関する研究(EIS)
  の結果、グランドキャニオンがグレンキャニオンダムから受ける影響を減らすための方針を制定するため、運営作業グループとグランドキャニオン監視、研究センターが設立された。


野生生物、魚に対する影響

● 4種の原住種―パイクミノー(pike minnow)(以前のコロラドスコーフィッシュ)、ボニテールクラブ(bonytail club)、ハンプバッククラブ(humpback club)、ラザーバックサッカー(razorback sucker)が絶滅した。グレンキャニオンにはもはやパイクミノーとボニテイルクラブの姿は見られない。これらの種の減少はほとんどグレンキャニオンダムによってもたらされたものである。
● 1994年、魚類と野生生物サービス(FWS)はコロラド川の3168キロとその支流をこれらの種の生存のための重要な地域として指定した。
● 移住種はダム建設後、冷たく、透明な水で繁殖し、原住種と対立、または原住種を捕食している。
● 絶滅危惧種法はすべての連邦機関にリストアップされた絶滅危惧種の保存に寄与するよう要請した。
● 水、堆積物、栄養素、の不足によりコロラド川とコレツ海は重要な魚の居住地を減少させ、デルタ地帯を乾燥させ、湿地を縮小させた。この状はパウエル貯水池に水をためるための間の20年間でデルタ地帯は致命的な破壊を受けた。グリーンシータートル、(green sea turtle)、ユマクラッツパーレール(Yuma clapper rail)デザートパプフィッシュ(desert pupfish)ヴァキタ(vaquita)、トトバ(totoba)は常に生存を危ぶまれている。これらの種の減少をもたらした理由の一つは生息場所の環境悪化にある。
● 下流の生態系に影響を与えないようにするために、貯水池はおよそ15年から20年の長い期間で排水されなければならなかった。


健康問題

様々な種類の自然からもたらされ、または排水として流された汚染源はパウエル貯水池の水を汚染した。これらの汚染物質は遺棄されているウラニュウム鉱から発生する放射能、および重金属、レクリエーション用ボート類から出される石油汚染、貯水池に溜まる生活廃水により発生するバクテリアなどがある。

● 自然的に発生するセレンや水銀はダムがある以前のように無害で海に流される以上に貯水池に溜まる。
● ユタのハイトに近いグレンキャニオンの排水により、有害なウラニウム鉱の尾部層が水に浸かった。
● ウラニュウム鉱尾部の浸水はまた、掘削システムに残されたトリウム230、ラジウム226、ラドン222による放射能汚染にもつながる。
● ウラニウム鉱の尾部は高濃度の重金属たとえば、砒素、バリウム、カドミウム、鉛、セレニウム、バナジウムを含んでいる。これらの金属は人体に非常に有害である。
● この土地の堆積物からもたらされる重金属の水への浸透により、有害な重金属が水に染みこみ、魚に進入する。
● 堆積物を洗い流すことは重金属を下流に流すことになる。それゆえこの作業の間、監視する必要がある。
● 貯水池の排水によって廃坑の尾部が表出し、これに蓋をするかまたはこれを撤去する必要ができる。
● 貯水池をレクリエーション目的で使用することにより、水および水底で鉛や他の有害物質の汚染が進む。
● 人糞を貯水池に排出することにより、バクテリア値のレベルが上がり、遊泳場所の一部の閉鎖が必要となる。


レクリエーション

ダムに対するレクリエーションと環境に関する必要性はグレンキャニオンダム操業に関する第4優先事項としてコロラド集水域法に規定されている。実際にはこの2つの優先事項は異なった方法で管理していく必要がある。パウエル貯水池でこの地域で独自に見られる多くのレクリエーションの機会があればあるほど、環境はより多くの犠牲を払わなければならない。

● グレンキャニオン国立レクリエーション地区はアリゾナ州で3番目に人気のある施設である。ここは250平方マイルにわたる浅瀬で、年におよそ2500万人が訪れる。1998年度の総入場者数は4300万人であった。
● 2ストロークエンジンはガソリンとオイルの混合で動き、25〜30%の混合物が燃えずに水中に排出される。年におよそ100万ガロンの二酸化炭素汚染がパウエル貯水池に撒き散らされた。このうち、2万ガロンは低い、燃えなかったオイルである。パウエル貯水池に流れたこの量はエクソンバルディーズ号(Exxon Valdez)の流したオイルの量の10回分にあたる。
● グレンキャニオンレクリエーション地域でできるレクリエーションはこの地域独特のものである。
● この地域のほとんどの来訪者はグレンキャニオン観光、ボートこぎ、一般的にパウエル貯水池で行われるレクリエーション、およびダム観光をする。
● 来訪者の58%は水、海岸から隔たった場所での活動をする。すなわちハイキングや遺跡探訪を行うが、この活動はダムがなくてもできる。
● パウエル貯水池で人気のアトラクションの一部は大変費用がかかるので、この利用は一部の余裕のある人々に限られる。
● パウエル貯水池の来訪者のうち、そのほとんどの平均家計収入は年に7万ドル以上である。これにより1287名の調査対象者の平均年収は9万400ドルである事になる。
● グレンキャニオン、ブライスキャニオン、ジオン国立公園などの様々な国立公園や記念碑がページを囲んでいる。そのため、パウエル貯水池の来訪者は貯水池をこの地域一帯の大きな観光旅行の一つの立ち寄りポイントとしてしか見ていない。
● グレンキャニオンダムはグレンキャニオン国立公園のレクリエーション地域とグランドキャニオンのレクリエーション人口の増加に寄与している。グランドキャニオンを通るコロラド川は1年に2万人の釣り人がおり、1万5000〜2万人が急流ボートで遊び、3万3000人の一日観光の筏下り利用者がいる。
● 186マイルのグレンキャニオンを通るコロラド川の改修工事は、最近需要が増大し、許可された地域でしかできないラフティングの機会を増やした。
● グレンキャニオンダムの破壊は年に180万ドルの収入があるダム下流のサケ漁業の状況に悪影響を与えるだろう。
● パウエル貯水池の岩から水に染み出たミネラル分によって浴槽の排水溝にできた汚れは約5〜10年で消滅するだろう。

ダムの安全性

開墾局の研究によると、想定されるグレンキャニオンダム最大の洪水は水がダム頂上から5フィート下のところに達するところだろうと指摘した。この結果は、しかし、雪解け、嵐の季節に慎重で適切なダム管理ができていることが前提である。そこで、悲劇的なダム管理の失敗はめったにありそうにもないが、予期しない洪水によって起こる大きな損害を受ける場合もある。大惨事をもたらす排水溝の欠陥はきわめてありそうな状況である。、そして、この状況が実際に1983年の比較的低レベルの洪水が起こった時に危うく現実となりそうであった。

● 貯水池は発電の為にほとんど満杯の状態に置かなければならない。しかし、この状態は洪水の水を受け入れる余地のあまりないことを意味する。
● 1983年に起こった雪解けシーズンの洪水はグレンキャニオンダムの排水溝に非常に大きな損害を与えた。この洪水はパウエル貯水池に最大で12万立方フィート流れ込み、比較的軽度の洪水または長期にわたる水の滞留により、排水溝の悲劇的な欠陥をもたらすことになったかも知れなかった。
● 地質学的な物証と歴史的なデータでは、今後1983年、1984年に起こった洪水の規模をはるかに上回る洪水の可能性を指摘している。
● グレンキャニオンダムがパウエル貯水池の貯水限度を超えたことで生じる洪水は最大でおよそ70万立方フィートと予想される。


水供給
 
グレンキャニオンダム建設の目的の一つは下流域の住民に対する水の供給を目指した水の貯水池への貯蔵である。実際には、すべての下流域の住民にとって、メード湖の水が使用できるので、パウエル貯水池の水は必要でない。パウエル貯水池の水のみを直接使用するページ町や石炭を燃やすナバホ発電所も2700万エーカーフィートの水を貯蔵することなく、水が川から直接パイプで運ばれるか、小さな、水路から離れた貯水池からの供給を受けることで足りる。

● もしパウエル貯水池が排水されたら、下流域地域に対する一年間の水輸送量は750万エーカーフィートの水(全体の供給量の27%)が不足する一方、この数字は貯水池が運営されている時の水供給量全体の20%分である。しかし、もしパウエル貯水池が排水されたとしても、コロラド川協定に規定されている水不足の発生(10年間に7500万エーカーフィート)は100万分の1.3回の確率でしかない。
● 水不足は水の節約によって補える。
● パウエル貯水池の存在がなくても、貯水池上流域の州に対する水供給は通常のレベルに保つことができる。
● パウエル貯水池がなければ、コロラド川に流れる平均年間水量は貯水池の蒸発がなくなるために年44万4000エーカーフィートふえる。
● パウエル貯水池なしで、1年間に下流域に流れる水の量は9万1000エーカーフィート減るだろう。
これは内陸部に流れる1年間の水量の変化が大きい事による。水量が多い年では、余分な水は消費のために貯蔵されるよりはコレツ海に流される。水量が少ない年は、下流州水域では水不足が起こる。(750万エーカーフィート以内)この水量変化の多様性によって、水は年平均で9万1000エーカーフィート不足する。

電力供給

1968年コロラド川流域法はグレンキャニオンダムの優先優先事項を決定した。発電は最後の優先事項であり、ダムに関するその他の目的は二次的なものとみなされた。しかしながら、グレンキャニオンの電力供給量は年に400億キロワット/時で、この電力は低コストでまず消費者に供給される。電力消費量がピークに達するとき、収入を最大にするため、毎日水が発電所に流され、野生生物やレクリエーションは二の次とされる。

● グレンキャニオンダムに溜まる堆積物はパウエル貯水池を満たし、最後に発電所の取水構造も詰まらせるだろう。堆積率から考えるとこの現象は100年から400年以内に起こるだろう。
● グレンキャニオン水力発電所はダムが破壊された後も10年から15年の操業と発電は可能である。また、この時間は代替発電源を探すための時間としても十分である。
● グレンキャニオンダムは1年に4500〜5500ギガワット/時発電するが、これは4つの州地域(コロラド、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコ)を合わせた発電量の3%である。

● この電力源の減少によってこの非常に多くの恩恵を受けている電気料が上がることになる。

● グレンキャニオンダムから電力の供給を受けているすべての人々はその他の電力源からの電力の供給が可能である。

● 石炭を燃やして電力を供給するアリゾナのナバホ発電所はパウエル貯水池の水を冷却水として使用している。この施設も川から直接水を引くことで操業を無限に続けることができる。

● ナバホ発電所はグレンキャニオンダムの発電量のほぼ2倍の電力を発生させることができる。

● 電力需要のピーク時にグレンキャニオンダムから供給される電力の消失量はガスまたは石油の燃焼による発電によって代替可能である。ただし、このタイプの発電所は水力発電所の経営よりも費用がかかる。

● エネルギー節約や燃料電池などの新しい発電技術により、グレンキャニオンダムによる発電は必要でなくなるだろう。

アメリカ原住民問題


グレンキャニオンダムとパウエル貯水池が共に、ナバホとこの地域に住むその他のアメリカ原住民に影響を及ぼす。アメリカ原住民は数千年にわたり、この地に住み、彼らの生活様式はこの土地と彼らの関係の中で深く根付いている。孤立した居留地には観光客から得た収入と高くない電気代によって潤っているが、この状況はその文化と宗教にとっては大きな打撃である。

文化

● グレンキャニオン地区は白人が入植する以前の長い間、アメリカ原住民の文化が根付いていたがグレンキャニオンの排水により、広大な考古学的資料が破壊された。
● 土地の浸水に先立ち、ユタ大学や北アリゾナ大学によって数千の考古学的価値のある場所が記録された。ここには居住地、陶器、岩面陰刻などが含まれる。
● パウエル貯水池は長い間ナバホとポイの精神的な象徴の地であるレインボーブリッジ下の地域も浸水させた。多くのアメリカ原住民はこの地域や他の彼らの神聖な地にレクリエーション目的でくる人々の増加を快く思っていない。
● すでに25フィートもの堆積物がレインボーブリッジ下のグレンキャニオンに溜まっている。
● ナバホ族はレインボーブリッジ周辺の地が洪水により土地の神聖さを失ったと主張している。彼らは開墾局、コロラド州、ユタ州、南西部、コロラド水保存地区に対し、この行為は修正第一法(Radomi vs. Higginson)に照らして、彼らの宗教的な権利を侵害したと主張した。

経済的影響

● ナバホ居留区の失業率は27%〜42%である。
● アリゾナ州ページのナバホ発電所とカエンタ石炭鉱、およびその関連施設、1456人のナバホ原住民を雇用している。
● ナバホ族は最近、パウエル貯水池の南西沿いのアンテロウプにマリーナとレクリエーション施設を開発中である。
● アンテロープポイントマリーナで予想される雇用者数は300人であろうとされ、その多くはナバホ族であろう。しかしながら、その利益はナバホの人々が受けるというよりも個人企業が受けることになろう。
● パウエル貯水池によって浸水された土地の権利は形式的にはナバホ族にある。そこで、彼らには浸水した地域に対する採掘権がある。
● グレンキャニオン国立レクリエーション地域周辺のナバホ社会の一部は旅行者によって支えられている。しかし、多くの旅行者はこの地を通りすぎて、他の目的地、たとえばグランドキャニオンを訪問する。



経済

グレンキャニオンダムとパウエル貯水池には、伝統経済学的、生態経済学的意味での多くの様々な経済的費用と利益が存在する。伝統的経済学的方法(ドルとセント)は非常にたやすく短期的な費用と利益を決定、比較するが、先の世代の費用を考慮に入れない。伝統的な会計計算は環境および自然資源の価値を考慮していない。さらに、われわれは伝統的経済学にもとづく検証―実際にダムにかかる費用はいくらか、維持可能な環境と生態系を再生することによってもたらされる利益も計算に含めなければならない。



グレンキャニオンダムの費用

● グレンキャニオンダムとその周辺の基幹整備の建設費用は1963年度のドル価値で2億7200万ドルであった。
● ダム建設費用をアメリカ財務省は2013年までに完済すべきである。
● 総操業、および総維持費用は年に1100万〜2900万ドルである。
● 1996年に締結されたグレンキャニオンダムの環境が受ける影響に関する声明の結果もたらされた、ダム操業に関する改定手続きにより、ダムの発電量は制限された。
● 1983年春に起こった雪解け水による洪水により、グレンキャニオンダムの排出口はひどい損害を受け、その改修費用は1億3000万ドルであった。

貯水池の排水による影響

● パウエル貯水池のレクリエーション目的の使用価値は貯水池の排水にかかるだろう15〜20年の間下がるだろう。
● グレンキャニオンダムの生態系システムの回復はこの大規模で独特の生態学的な自然の回復を観察したいを旅行者や、科学者の注意を引くだろう。
● パウエル貯水池に関連する活動は最終的にはできなくなるだろう。しかし、グレンキャニオンを通る川を改修することにより、より多くの代替的な活動、たとえばハイキングやラフティング、観光ができるであろう。
● パウエル貯水池から収入を得ている周辺市外の住民は貯水池に頼らない他の産業に移ることが必要であろう。 
● グレンキャニオンダムを破壊するという提案に関する経済的含みは複雑である。そして開墾局の指導のもと、ダム破壊も環境に関する影響の一部に組み入れ、慎重に検討されなければならない。

地域の現行経済

● パウエル貯水池は4つの郡(Kane,Garfield,ユタ州のSan Juan、アリゾナ州のCoconino郡)に広がっている。これらの地域はすべて人口も多くなく、生活は観光客に依存している。
● これらそれぞれの地域の最大雇用者は政府である。
● アリゾナ州のペイジはパウエル貯水池周辺50マイル四方に位置する地域最大の町で、人口はおよそ9250人である。
● 主にページを経済的に支えているのは貯水池、発電所、と観光産業である。
● ページの最大の雇用者はアルマナック(多くのマリーナを所有)とナバホ発電所である。
● ページの平均失業率は5.8%である。
● およそ産業の65%は観光業から発生している。
● グレンキャニオン国立レクリエーション地域の来訪により、約3億8000万ドルが生み出される。この収入のほんのわずかがこの地域に残り、およそ4000万ドルがページとその周辺町村に残る。


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