3.長良川河口堰下流の底生動物の調査
長良川河口堰運用によって、堰上流部の生物相が変化して行くことは明白であるが、
堰下流部の底質および生物相の変化については様々な予想がなされている。そのため、
その変化を知るために調査を行った。
方 法
本調査は、原則として長良川河口堰下流のヘドロ堆積調査と同時に行った。堰運用前は1995年5月27日、
運用後は1995年8月14日、11月3日、1996年5月26日、8月13日、9月14日に船上よりエクマン・パージ採泥器を用いて川底の底質を採取した。
調査地点および方法は、1995年5月27日、8月14日については河口からOkm、3km、5.2km、6kmそれぞれの場所で1ヶ所ずつ定点を設定し、
各5回の採取を行った。1995年11月3日以降は、0.2km、1km、1.8km、3km、4km、5.2kmの各地点で右岸寄り、
中央、左岸寄りの3ヶ所において各3回合計9回ずつの採取を行った。なお、長良川と揖斐川との境界が明確でなくなる場所から河口までの地点では、
両河川を延長した線を右岸とみなして調査地点を設定した。また1996年8月13日は、5.2km、4km、3km
(右、中)まで採取した時点で天候が悪化し、そこで中止した。1996年9月14日には、その残りの3km(左)、
18km、1km、0.2kmと揖斐川の0.2km、2km、3km、5km(いずれも中央のみ)の採取を行った。
採泥器で採取した底質は、1mmメッシュのフルイで泥などを除いた後、肉眼で確認できるものを採集し、
10%ホルマリンで固定・保存した。
結 果
1)河口堰運用後の変化について、20cmx20cm当たりの平均個体数を図12に示す。
1995年11月3日以降は採集地点を増やしているが、運用前との比較のためにその定点における変化のみを示す。
まず、運用前6km、5.2km地点では多毛類が多く採集されたが、運用後は減少した。
貝類については河口付近のホトトギスガイ以外はあまり採集されていない。11月3日の882.3個体は、
小さな個体が多数いたためにこの数値になった。これら1995年5月に設定した各定点においては全般的に個体数は少なかった。
2)1996年の夏以降の状況について図13に示す。なお、この図は最近の状況を示すために1996年8月13日と9月14日の結果を合わせて表示してある。
揖斐川と長良川の違いが顕著にあらわれた。揖斐川の3km、5km地点では、ヤマトシジミが大きな個体から小さなものまで多数採集された。
長良川の4km地点でヤマトシジミがやや多いが、この近くでは「渚プラン」が実施されている。
長良川で底生動物の個体数が多かったのは、1km、1.8km地点の右岸寄り(つまり川の流心部付近)
でのヤマトシジミと、1km地点中央のホトトギスガイであった。
3)揖斐川では、堰運用約3カ月後の1995年11月と1996年9月の調査では、ヤマトシジミの生息量に顕著な違いは見られなかった(表3)。
考 察
1)堰運用前後の変化に関して、個体数の面では運用前のデータが少なく、検討しにくい。
5.2km地点での多毛類の個体数は減少した。それに加えて、種類もいくらか変化しているようである。
しかし、同定できていないのでこれについてもはっきりしたことは言えない。
2)現在のこの地域の状況については、長良川の3km地点から河口堰間の個体数の少なさが目立つ。
揖斐川との対比によってそれが際だってくる。また、長良川の1.8km地点(右)と1km地点(右・中)
で貝類の個体数が多いことから、揖斐川の影響がこの地域に及んでいるような印象を受ける。特に今回、
長良川の1.8km地点(右)においてヤマトシジミが78.0個体も採集されたのでその印象が強い。しかし、
この地点でヤマトシジミは1996年5月26日には11.7個体、1995年11月3日には9.7個体であり、
それほど多いわけではなかった。今回のこの個体数と分布の傾向が今後も続いていくのかは興味深いところである。
なお、この地点の水深は2m以下と浅い。したがって、採集地点と水深との関連も考慮する必要があるだろう。
3)ヤマトシジミの個体数の変化について、堰運用前の建設省の詳細な調査結果と長良川下流域生物相調査団の運用後の結果を比較すると(図14、15)、
Okm地点および堰-揖斐長良大橋閏(3km、4km、5.2km地点)の減少の激しさが明白である。一方、
揖斐川では、ヤマトシジミの生息量に顕著な変化はなかったと言えよう。
表3 図12 図13 図14 図15
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