4.長良川河口堰湛水域におけるヨシ原の衰退と沈水性水草の発生調査 長良川の下流域に発達していたヨシ原は、近年の護岸工事やブランケット工事のため、年々減少してきた。 建設省によれば、約300haあったヨシ原は、1995年までに約100haにまで減少したと言われる。 ヨシ原は河口域の代表的な景観であるが、水質浄化作用の著しい水域であること、 チュウヒやオオヨシキリなどの鳥類の生活・繁殖、稚魚や椎貝の生育にとって重要な場所であることから、 近年その保全が求められている。
河口堰運用前には、ほば全てのヨシは潮間帯(干潮時に露出し、満潮時に水没する区域)に生育していた。 堰運用後、水位はT.P.80-130cmで保たれるので、T.P.80cm以下の区域は常時水没することになる。 このような変化はヨシにどのような影響を及ぼすであろうか?また、ヨシが死滅した場合、 どんな植物か生育するだろうか?方 法
1)河口堰とワンド(15km地点)問の数地点に定点を設定し、写真撮影を行うなど、 ヨシ原と浅瀬の変化を観察した。また、沈水性水草について、1996年10月29日および11月2O日に堰と名神高速道 (33km地点)間の岸辺を船上から観察し、適宜植物を採集するとともに、生育場所の水深を調べた。
2)1996年5月14日および6月7日に、1uのワクを設置してヨシ密度、生重量および生葉数と水深との関係を調べた。
3)1996年秋に名神高速道-伊勢大橋間でホテイアオイの漂流、定着、増殖について観察した。結 果
1)10km地点-伊勢大橋間の所々で、新芽が成長できず、ヨシ原が死滅した(図16)。
2)ヨシ原が死滅した場所は、水深(水面標高をT.P.105cmとして)約1mよりも深い所であった。 なお、新芽がある程度まで成長できた水深の限界は、地盤高T.P.-20cmであった。
3)生育場所の水深とヨシ密度、生重および生葉数との間に一定の関係が見られた。つまり、 水深が深くなるにつれて、ヨシの成長が悪くなる傾向が認められた(図17)。
4)伊勢大橋から少なくとも33km地点まで、両岸の浅瀬にはエビモ、オオカナダモ、 コカナダモ等の沈水牲植物が発生していた(図18)。場所によっては、河床全面を被うほどに繁茂していた。 生育場所の水深は約1.5mよりも浅い所であった。
5)名神高速道-伊勢大橋間の両岸、特に左岸に大量のホテイアオイが定着・増殖したが、 建設省は大規模な除去作業を行い、ほぼ完全に除去した(図19)。考 察
1)長良川河口堰湛水域のヨシ原が堰運用によってどのように変化するのかは、 本水域の生態系の変化と関連する重要な問題である。建設省・水資源開発公団は、 護岸工事や湛水の影響で"一部に"影響がでるとしてきた。しかし、湛水後1年でかなりのヨシ原が死滅した。 今回の調査結果から、さらに広範なヨシ原の死滅・衰退が懸念される。
2)ヨシ原間の水域など水深1.5mまでの浅瀬に、沈水性の水草が繁茂し始めた。 伊勢大橋上流のヨシ原間の干潟はヤマトシジミの良好な生息地であったが、今後この水域では、 シジミの放流・漁獲は実際上不可能であろう。
3)カナダモやホテイアオイなどの水草は、吉野川、紀ノ川、芦田川などの既存の河口堰で大発生し、 建設省はそれらの除去に多大な費用を投じてきた。これらの植物が水質や他の生物にどのような影響を及ほすことになるか。 今後系統的な調査・研究が必要である。