「21世紀の河川思想」天野礼子=編 共同通信社
 ISBN4-7641-0382-6 1800円


表紙
 本書は、96年9月に長良川で開催された“国際ダムサミット”に出席した、内外 の各方面の専門家たちが、悪しき20世紀の河川政策を振り返り、来たるべき21世 紀の河川思想についてまとめたものである。
 著者の一人、鷲見一夫氏は以下のように述べている。
 「今日、世界の主要河川は大規模ダムにより遮断され、「流れない川」となってし まっている。この意味において、20世紀は、まさに「川殺しの世紀」であった。」
 「21世紀における河川思想の基盤となるのは、河川の持つ多様な価値を最大限に 維持すること、そしてそのために「流れる川」を復活させることであるべきである。 そのような意味合いにおいて、21世紀を、「川を回復する世紀」にすべきであると 言えよう。」
 20世紀がなぜ「川殺しの世紀」になってしまったのか、そして21世紀を「川を 回復する世紀」とするために我々はどうすればいいのか。本書は、世界各地のダムの 現状を述べ、法律、経済、河川工学など多彩な視点から展望している。
 「アメリカにおけるダム開発の時代は終わった」と95年に宣言した、米国開墾局 前総裁、ダニエル・ビアード氏と、世界4000のダム反対運動の知恵袋、フィリッ プ・ウイリアムズ氏は、アメリカがすでにダム建設をやめ、ソフトな水資源管理方法 に移行しつつある現状と、そこに至った経緯について述べている。ダムは功より罪の 方が大きく、他にもっと優れた方法があることを官民ともに学んだからだ。アメリカ のみならず世界の潮流は否ダムに向かっている。
 それに対して日本はどうか。最近、建設省は、12ヶ所のダムの建設中止・休止を 発表した。これは長良川を中心とする市民の活動がもたらしたものであり、ほんの十 年前には考えられなかった大きな変化である。しかし逆にいうと、残る300以上の ダムは建設を推進するということであり、いまだに世界の潮流に逆行していると言え よう。そればかりか、日本のダムマフィアは、世論の高まりにより国内にもはやダム が造り難いとみるや、発展途上国への進出を目論んでいるというありさまである。
 私たちの血税を使ったこの愚行を見逃していいのか、われわれ一人一人がこの問題 についてもっと考える必要があるのではないか。
 この本の最後に編者の天野礼子氏はこう述べている。
 「「川の思想」を語る本が、もっと楽しいものであるべきことはわかります。しか しこの本がそうでないのは、20世紀に生きたこの国のすべての人々の責任です。私 たちは21世紀の子供たちにどんな川を手渡せるのか。あなたにもそれを考えて欲し い。その一助に、この本がなることができれば幸いです。」
 

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