VOL.17-1


建設省を、私達が変身させた
長良川河口堰建設に反対する会 事務局長 天野礼子  


 昨年12月に、建設省より重大なニュースが3つ発信された。
■12月4日。建設省の諮問機関である「河川審議会」が提言を発表し、1月からの通常国会では、この提言に沿って「河川法」が大改正されることになった。提言の内容は、
(1) 河川法に「環境」というキーワードを入れる(今まで入ってなかったのだ!!)
(2) これからは「多自然工法」や「河畔林」などを多用し、自然の浄化や治水の力を利用する工法に切り替える
(3)(しかし)、21世紀は水飢饉の時代になるので、ダムはやめない。
ここで問題なのは(3)であるが、これについては、日本は、少子型社会にむかっており、水はリサイクルされており、重工業は頭打ちで、海水から淡水にする技術は世界一であるので、他の少雨・水源林伐採国と同じように建設省が水飢饉を論じることはまちがっている。
■12月16日。建設省が全国12のダムについて行ってきた「ダム審議会」に掛かる事業のうち、3つが見直されることが発表された。
■12月25日、クリスマス。建設省は「ダム審議会」以外の全国のダムから、4つを中止することを発表した。この発表には、「ダム反対派に言われたからやめるんじゃない。いつか後世の人が、あの時建設省が変わったといってくれるだろう」との建設官僚青山俊樹氏のコメントがついていた。
 私は大いに愉快になり、仲間に「建設省からクリスマスフレゼントがきたよ」とFaxをした。青山俊樹とは、河口堰の運用を発表した元建設大臣、野坂浩賢をマインドコントロールし、河口堰を運用させた男だ。この人が悔しがっているのが、このコメントに見える。これはすなわち、建設省全体の敗北宣言である。

 そして、明けて1月。建設省も農水省も、公共事業の効果分析のための新しい調査法を発表した。これは私達が長良川で訴えた「責用対効果」が公共事業に反映されないためムダな事業が行われるとの声に対応したものだ。
 昨年私達は、「河川法百年の節目に変身しろ」と建設省にせまった。そしてビアード氏やフレツド・ピアス氏を招き、「世界の潮流」に「日本だけが逆行」していることを世に明らかにした。
 建設省からのクリスマスプレゼントを含む四つのニュースは、もはや彼らが観念をして変身せざるを得なくなったことを教えている。皆さんは、私達のこの8年の運動が、この状況を作り出したことを知り、そしてそのことを世の中にぜひ広めてほしい。
 また、1月22日には、国会の代表質問で、民主党代表の菅直人氏が、今国会に議員立法で「公共事業コントロール法」を上程することを発表した。公共事業を閣議決定ではなく国会承認とするというのがこの法の主旨で、この「コント□−ル法」は、私達長良川と「公共事業チェック機構を実現する議員の会」が法政大学教授の五十嵐敬喜氏の指導であたためてきたものを民主党に提案したものだ。そして私たちは、建設省の「河川法改正案」に対しても対案づくりを、同党に提案している。
 そして、国会内では、今やキーワードは「政治改革」でなく、「公共事業チェック」である。これは我々の運動が「公共事業チェック機構を実現する議員の会」とつくりあげた状況である。(「議員の会」そのものは、払たちの提案で誕生したものだ)
 そんな状況の中で、もう一つ新しい発表が、昨日(1月31日)、今度は、かの心やさしき環境庁から発信された。
 「長良川河口堰について環境庁は、独自の調査を実施、結果によっては、ゲートを上げておくことを建設省に進言する」というもの。調査の内容は、(環境対策のためゲートを全開した場合の)堰上流部の塩水化と、ゲート操作の方法、ゲート全面閉鎖後の水質及び生態系の変化の評価、等。
 今こそ皆さんに、前々号に私が書いた縄文杉の話を思い出してほしい。「“縄文杉”は、全国の森を代表して象徴となり、登山家のキャラバンシューズに踏まれながらもがんばり、屋久島全体や日本中の森を守るキャンペーンのため働いた。その瀕死の縄文杉は屋久島が世界遺産になったことをきっかけにキャラバンシューズの重みから逃がれ、今はひっそりと休養できるようになっている。“長良川”は、日本の川を代表してがんばり、全国のダム反対運動を決起させ、川を考える世論をつくった。河□堰を運用され水質等に大きな被害がではじめているが、一日も早くゲートを上げて、守ってやろう」。


写真:2月8日 河口堰を視察する菅 直人代表 photo 伊藤 孝司

 私たちが、8年間の運動で、百年間の建設行政を変身させた。長いようで短い、すばらしく充実し、 日本と田中角栄型政治を変身させた運動である。
 昨年の夏には経済同友会のオリックス社長宮内義彦氏が「次々と工事を作ることしか考えない建設省など、解体しろ」 といい、衆議院選挙時に父共事業の追加を発表した自民党に対しては秩父セメントの相談役諸井氏が、 「私たちは業者だから仕事はほしいが、国が滅びるまでやってはいかん」と発表している。 アメリカがダムをやめた理由の一つは、経済が公共事業を支えなくなったからだった。 日本の経済界も、ようやく危機意識を発言するようになった。これも、私たちと 「公共事業チェック機構を実現する議員の会」の運動の成果なのだ。
 1988年8月に、師の開高健さんに掛けた一本の電話を思い出す。 「先生は十数年前まで日本の川でイワナやヤマメを釣られていた。それが近年は、世界の未開地にしか行かれない。 長良川が“最後の川”とお教えしても、先生はまだ二ッポンの川から、逃げ続けられるのでしようか。」
 「負うた子に教えられる、やナ。わかりました会長になりましょう。そのかわり相手は建設省や、 一歩も引かんと闘うんやで、おまごちゃん。」この一年後、開高さんは亡くなった。しかし今でもわが 「長良川汚口堰建設に反対する会」の会長は、開高師である。
 師が、天国で、二コニコしておられるのが見える。そして、こうおっしゃっている。
「あと一歩。気ィを抜いたらあきません。悠々として急げ」
1997年2月1日

追伸 この原稿を書き上げてから急遽、民主党の菅直人代表と佐藤謙一郎衆議院環境委員会委員長の視察が本日実現した。
 菅代表は、「(海水の)逆流防止のために、こんな大きな施設が必要なのだろうか。造ることだけを重んじ、 何のために必要なのか、はっきりしない。長良川の問題は公共事業の象徴的な問題だと思っている。 公共事業などのあり方をチェックするため、閣議決定ではなく国会の承認が必要となる“公共事業コントロール法”と、 “河川法”に対するわが党なりの対案を今国会提出に向け準備している」と発言し、佐藤氏は「長良川は象徴的な問題だから、 解決にも象徴的な行動が必要。環境庁の調査がガラス張りのものになるよう、尽力する」と約束してくれた。
 ゲートが上がる日は、近い!
 2月8日。


 建設省の計画中止または見直し事業

・<福島県>日橋川(にっぱしがわ)上流総合開発開発事業 中止
・<茨城県>稲土井(いなどい)調節池総合開発開発事業 中止
・<福島県>水原(みずはら)ダム 中止
・<石川県>伊久留川(いくるがわ)ダム 中止
・<北海道>沙流川(さるがわ)総合開発 平取ダム建設凍結
・<青森県>むつ小川原開発小川原湖淡水化撤回
・<栃木県>渡良瀬遊水池総合開発 審議委員会が新貯水池建設の凍結を求める

 北海道開発庁事業

・<北海道>千歳川放水路 開発局長が計画見直しに言及


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