VOL.21-2


河口堰工業用水を裁く。 “使わない水になぜ払う?”
「長島河口堰を考える会」代表 長島町議会議員 大森 恵   


 なぜ、私たちは特別に長良川河口堰の「工業用水」を裁くのか。それは、一九九五年(平成七年)に長島町で開かれた「長良川河口堰に関する『円卓会議』」が発端である。
 「円卓会議」とは、その年の四月から開始する、長良川河口堰の運用(ゲート閉鎖)を何とか阻もうと必死で動いた天野礼子氏の、乾坤一郷(けんこんいってき)の策であった。時の建設大臣・野坂浩賢(社会党)の選挙支持母体「自治労」を動かして「円卓会議」を開くことを決めさせたのである。
 日本における「円卓会議」の初めは成田空湾用地問題で、絶対反対の現地農家と話し合いを拒否する運輸省とを一つのテーブルにつかせて、徹底的な話し合いで和解と解決への道を開いた快挙を前例とする。
 しかし長良川の「円卓会議」では、建設省は論議すべき問題点を故意にはずし、形式論議に終始させてこの論争の場を不毛な対立の場とした。そして野坂浩賢は会議を中断しむりやり運用へ持ち込んだのである。

 「円卓会議」席上での建設省の数々の「嘘」のなかでも卓越した「嘘」は「水需給問題等の円卓会議」の促進の市民代表、社団法人中部経済連合会開発部長、阿部昌弘の「嘘」である。
 いわく「長良川河口堰の水を早く使わせてもらえるかどうか。あれだけ出来ているのになぜ使えない」「経済界は費用負担をしていないというが。工業用水はただじゃあない。ユーザーはちゃんと金を払う」。「嘘」に限りはないのか。私は呆れ果てつつこの発言を固く記憶にとどめたのである。

 それから三年の月日が流れて。昨年の一月十日、一つの新聞記事が発表された。「愛知県の工業用水は需要が全く無いため、今年度から始まる工業用水分の償還金を一般会計から支出する」。私たちは怒った。「河口堰の水が必要」とした三年前の中経連の嘘は許せない」長島・桑名・岐阜の四人で素早く行動した。
 一月二十日、中経連へ抗議と責任追及。二月二十日三重県企業庁と交渉、三重県は「出資金」だという。二月二十三日、愛知県企業庁と交渉。工業用水の需要は当分見込めないので「貸付金」として支払うという。
 名水労(名古屋市水道労働組合)の渡辺氏も私たちに合流。彼は徳山ダムの建設見直し会議に出席した。ここにも中経連の阿部昌弘がちゃんと座っていて「徳山ダムの工業用水は必要」と発言していた!

 愛知県と三重県において、会計監査請求および支払い差し止め裁判の提起。
 工業用水道事業は独立採算で経営する。その経営は料金収入でまかなう。特に工業用水事業は使用者が決まっているので、水道用水以上に独立採算性が高い。需要の見込めない工業用水の開発をしてはならない。
 需要のない水源開発、設備建設をすれば、責用の支払いのための収入のないことは初めから分かっている。長良川河口堰の工業用水会計への税金の支出は「違法」である。私たちは「工業用水裁判」に踏み出した。

 なお昨年八月に建設省は遂に、長良川河口堰の水は全く需要がないと認めた。将来にも水需要は発生しないと認めた。そして新しい「嘘」の悪策を自治体に示した。「今後は長良川河口堰の水を優先して使い、木曽川各ダムの水は渇水時の非常用水として確保する」という提案である。木曽川の水は約半量が余剰であり、河口堰の水は全量が余剰である。償還費用の割り振りはどうなるのか。自治体泣かせの提案である。私たちの「工業用水裁判」はこのごまかしすり替えの中心を突くものである。

<河口堰で日本一高い環境ホルモン数値>
 昨年噴出した環境ホルモン問題で、建設省では急ぎ全国主要河川で環境ホルモンの調査を行い結果が八月に発表された。なぜかその中に「長良川河口堰」が入っていなかった。
 しかし実は、長良川河口堰の300m上流の「伊勢大橋」で、全国最高値の環境ホルモンが検出されていた!
 今に至るも建設省はその事実をひた隠しに隠し続けている。


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