VOL.22-2
国土庁のウォータープラン21への批判 嶋津暉之
(水源開発問題全国連絡会)
国も認めた水需要の架空予測
6月18日に国土庁は「新しい全国総合水資源計画(ウォータープラン21)」を発表した。前の計画「全国総合水資源計画(ウォータープラン2000)が策定されたのは1987年であるから、12年ぶりの改定である。この計画は、全国総合開発計画を構成するもので、全国各地のダム建設計画に対して最上位の計画になるものである。前回の計画は2000年を目標年次としていたが、今回の計画は2010年と15年を目標年次としている。
今回のウォータープラン21において、大きく変わった点は、水需要の予測を大幅に下方修正したことである。ここでは東海地方を例に上げて数字をみてみよう。ただし、東海地方といっても範囲は広く、愛知、三重、岐阜、静岡、長野の五県が含まれている。
一日平均水量で示すと、都市用水(水道用水と工業用水の計)は1995年の実績が1440万m3に対して、2015年の予測値は1550万m3である。前回の計画では2000年の予測値が1980万m3で、95年実績からの増加量が540万m3であったのに対し、今回の計画は今後の20年間で110万m3の増加にとどまっている。増加量だけを比べれば、1/5に下方修正されたことになる。
都市用水はすでにあまり増えなくなってきている。まず第一に人口増の鈍化がある。日本の総人口は増加率が次第に小さくなって2007年にはピークになり、その後は漸減傾向に変わる。地域別にみても、遅くとも人口は2010年頃には頭打ちになる。第二に便所の水洗化が下水道と浄化槽の普及で急速に進んだため、近い将来に上限値に到達する。したがって、水道用水の今後の増加量は小さい。第三に産業構造の変化で、水を大量に使う産業の生産が落ち、工業用水の伸びがほとんど止まった。この傾向は将来とも続いていく。
今回の計画も過大予測の面がまだ残っていて、一人あたり生活用水がこれから50リットル/日も増えるという非現実的な予測も含まれているが、しかし、全体としては上述のように今後の増加見通しは大幅に下方修正された。
今までの国の水需要予測は常に水需要の実績と乖離した、架空のものであった。そのことを私たちは強く批判し続けてきた。それにもかかわらず、その架空の予測に基づいて多くのダム建設等の水源開発事業が計画され、工事が進められてきた。
木曽川水系水資源開発基本計画(フルプラン)の場合は、1985年から2000年までの15年間に都市用水が約300万m3/日も増加し、それに対応するために、長良川河口堰等の水源開発事業が必要とされていた。
ウォータープラン21は、水需要が大幅に増加するという今までの予測が架空のものであったことを国自らが認めたわけであるから、これは、画期的なことと言えるかもしれない。実績と乖離した予測を行うことの愚かしさを国自身が反省したことになるからである。
それでも続けられるダム建設
ウォータープラン21によって今後の水需給の見通しは大幅に変わることになった。東海地方を例にとれば、2015年の都市用水の需要が一日平均で1550万m3、それに対して1995年の都市用水の安定供給量(確保水源)は「通常の年」(後述)で1640万m3であるから、すでに2015年の需要を充たす水源は十分に確保されている。したがって、従来の考え方からすれば、東海地方では95年以降の新たな水源開発は一切不要である。ところが、今後の水源開発で東海地方の2015年の安定供給量を「通常の年」で1830万m3/日まで高める必要があるというのである。
その理由とは、大渇水への対応が必要だというものである。ウォータープラン21では、安定供給量を次の三段階の渇水年に分けて求めている。一つ目は「通常の年」で、1976〜95年の最近20年間では第5位の渇水年(10年間で第2〜3位)、二つ目は「水不足の年」で、最近20年間では第2位の渇水年(10年間で第1位)、三つ目は戦後最大級の渇水年である。今後の水源開発を進めることによって確保される東海地方の2015年の都市用水安定供給量は、「通常の年」を想定すると、一日平均で1830万m3だが、「水不足の年」では1570万m3、「戦後最大級の渇水年」では1390万m3に低下する。同年の都市用水の需要予測値は1550万m3だから、今後の水源開発を進めておかないと、10年間で第2〜3位の渇水年には対応できるが、第1位の渇水年には不足をきたしてしまう。
だから、今後も徳山ダムや設楽ダム等といった水源開発を進める必要というのがウォータープラン21である。需要増の面では水源開発を推進する理由がなくなってしまったから、代わりの口実として出てきたのが大渇水への対応である。そして、2015年以降の水源開発は、2015年までの水源開発ではまだ対応できていない「戦後最大級の渇水年」への対応が推進の理由になるであろう。
しかし、言うまでもなく、大渇水への対応に新たなダム建設は不要である。渇水時において農業用水から都市用水へ水の融通を図ること、日頃から構造的な節水施策を推進して都市用水の需要を落としておくこと、渇水時に地下水等の自己水源をより多く利用できる体制を整えることなどの対策が進められていれば、東海地方では観測史上、最大の渇水年とされた1994年渇水においても水需要の充足が可能であった。このような代替手段があるにもかかわらず、きわめてまれにしか起きない「大渇水年」のために、自然を大きく破壊し、巨額の費用を要する徳山ダムや設楽ダム等の建設を進めるのはまことに愚かなことである。
今後はウォータープラン21にしたがって、各水系の水資源開発計画の再策定が行われていく。その内容は大渇水年への対応が中心になるであろう。大渇水年への対応という新たな口実で無用のダム建設を進める国の水政策に対して、私たちはこれからのたたかいを進めていかなければならない。
〔注〕安定供給量の計算手法が公表されていないので、これらの数字の信憑性は現段階では不明
東海地方(愛知・三重・岐阜・静岡・長野県) (1日平均水量)
ウォータープラン21の予測(2015年)
ウォータープラン2000の予測(2000年)
1995年実績(国土庁の数字)
都市用水の需要量
生活用水
取水量
703万m3/日
778万m3/日
619万m3/日
給水量
674万m3/日
732万m3/日
592万m3/日
給水人口
1700万人
1730万人
1640万人
一人生活用水
372リットル/日
372リットル/日
322リットル/日
有効率
93.9%
88.0%
89.4%
工業用水
取水量
850万m3/日
1200万m3/日
825万m3/日
淡水補給量
805万m3/日
1140万m3/日
781万m3/日
都市用水(生活用水+工業用水)
取水量
1553万m3/日
1978万m3/日
1444万m3/日
都市用水の安定供給量(確保水源)
想定する渇水年
「通常の年」
1827万m3/日
−
1636万m3/日
「水不足の年」
1570万m3/日
−
1427万m3/日
「戦後最大級」
1392万m3/日
−
1299万m3/日
河口堰の危険な水はいらない 常滑市議会議員 杉江節子 昨年四月から、知多半島四市五町の水道水源が、木曾川から長良川河口堰へと切り替えられた。ほどなく、市民の間から「水がまずくなった。くさい」「肌がピリピリする」等の声があがり始め、「浄水器をとりつけた」「飲み水はミネラルウォーターにかえた」の声も多くなった。
七月七日から浄水場で粉末活性炭の注入が始まり、途中で七日間の中断はあったが、結局九月一日まで続いた。「長良川河口堰管理状況」(速報)によれば、伊勢大橋地点のクロロフィルaは、五月末から高くなり七月二日以降急速に悪化、60μg/L以上(水質自動監視装置の測定上限値は60μg/Lでそれを超えると60μg/L以上と記される)が続き、活性炭注入と符合する。が、現実には、七月七日に取水口で110μg/Lを記録していた。
今年は、昨年より更に早く悪化し、五月に四日間、六月に十一日間、量にして十三トン余の活性炭が注入されている。
愛知県企業庁は、河口堰を水源とするため、取水予定地とその上流で、平成元年より毎月調査した結論として、アンモニア性窒素、総窒素、総リンのいずれも他の水系より高いことを認めている。長良川流域は、人口も多く、農業、工業とも盛んで、様々な排水・汚水が流れ込み河口堰に集合、停滞する。この水には発癌物質トリハロメタン、クリプトスポリジウム感染、全国主要河川中の最高値が検出された環境ホルモンの危険がある。このような不安に対して行政は「水質基準に適合した、安全な水である」という。使用されている無数の農薬の安全性は確認されておらず、環境ホルモンは対象外の水質基準項目と浄水方法で、基準さえクリアすれば安全といえるのか。私達は、そんな河口堰の水はいらない。
愛知用水上水の木曾川にある水利権は、農水、工水より下位にあった。「二十一世紀初頭に向けての水需要予測では、木曾川の水量では不足するため長良川に水を求めた経緯があり、水運用の変更は困難だ」と行政はいう。しかし、水需要の見込み違いや、減反、経済情勢の変化、節水の浸透などで木曾川の水は大量に余っている。使われないきれいな水は、木曾川本流から海に流れ込み、知多半島の住民は、よどんだ水を否応なく飲まねばならないのは理不尽である。
水源を元の木曾川にもどして欲しい。その解決のために建設省、通産省、農水省、厚生省は縦割りの壁を破り、自治体と共に、水利調整や転用のルール作りに今すぐとり組んで欲しい。
無駄な公共事業ワースト1の長良川河口堰のツケを払い、河口堰の実績づくりのために、高くて、まずくて、危険な水を飲まされるのはごめんだ。
徳山ダム本体の建設現場。長良川河口堰の水さえ売れないにもかかわらず徳山ダムの工事は進む。(99年7月撮影)
Photo by 伊藤孝司
河口堰の水は飲みたくない 亀山市の水道水を考える会 開発美佐子 私達の住む亀山市は、鈴鹿の山に源を持つ川の豊かな地下水の恵みを受け、これから先も平和な日々が約束されていると思ってきた。
事もあろうに、平成八年に五〇キロも離れた長良川河口堰の水を市民に飲ませる事が決められていた。「寝耳に水」とはこの事である。
亀山は四万弱の人口に対し、水は五万人分確保している。夏も涸れることなくミネラルが豊富で美味、夏は冷たく冬温かい水を、市民は誇りに思ってきた。それなのに何故、河口堰の汚い水が必要なのか。
水道局は(一)地殻変動のある災害時の代替水源が必要であると云うが、養老断層を近くに持つ河口堰が災害時に健在である筈もない。伊勢湾台風で切れた堤防は、当時、潮の干満にあわせて水位が上下していたのに、今は常時満水。たっぷり水がしみ込んだ堤防が震動で崩れるのは目に見えているというのに。(二)水道水は「きれいで安全」な水をお送りしますとの事だったが、これとても水道法に則って従来通りの域を出ず、日本一汚染度の高い河口堰の水の環境ホルモンは「国の基準が出てから対処します」との事だが、裏を返せば入っているだけ全部飲ませるという事である。(三)独自の水源を持つ町が水を拒否、料金だけ支払って飲まない町もある。この事に関して県は「飲む飲まぬは、自治体の長の考え次第」との事であった。
北野大氏の著書に、全世界で年間五〇万種類の化学物質が作られ、学者も対応しきれないとの事、例え国の基準が出ても、その頃にはまた汚染の様相は進んでいて安心できるものではない。
無作用濃度は、一生涯同じ量の薬品を毎日投与されても害のない量で、人間はその百分の一の量である。動物実験には長い時が必要だから…と考えた時、私達が人体実験されるのだ!と思った。水の濃度、実施時期等の条件が各地によって異なっているからである。
水俣病、イタイイタイ病も学者の警告があっても、国は大事に到る迄、何の手も打っていない。うがった考え方をするならば、まさに各々の原因物質の実験が完了した事になっている。私共は水俣病やイタイイタイ病の二の舞いになりたくない。
河口堰の水は調査結果もなく、データも基準もない極めて危険な水である。昨今、国はダイオキシンや食器類から出る可塑剤等には即座に対応するのに、何故この水だけは平然と飲ませるのか!こんな暴挙が許されて良いのか!
河口堰サミットでは、ダム、魚、貝、ヘドロ等の経緯や結果を学んできたが、局面は人間が汚染水を飲まされる事態に発展しており憤りを覚える。
長良川は年々姿を変えている。この川の滅びゆく姿は私共の町の未来に重なる。
国は私達を見捨てるのだろうか、人権を踏みにじるのだろうか、若者の未来を奪うのだろうか。
この原因を作ったのは国、一地方に犠牲を強いて片づけることなく、国会で採り上げて、国の責任で解決するよう切に願うものである。
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