VOL.24-3


長良川をどう救うか
建設省とNGOのモニタリング調査をふまえて

日本自然保護協会常務理事
吉田正人

  2000年3月3日、建設省の長良川河口堰モニタリング調査委員会は、「長良川河口堰に関する当面のモニタリングについての提言」をまとめて解散した。1995年7月に長良川河口堰が締め切られてから、おおむね5年間、防災、水質及び底質、生態の各分野に関してモニタリング調査を実施した結果、「科学的な解明については、早急に結論付けを行うことは必ずしも適切でない」と判断し、今後のモニタリングの方向性を提言して委員会は解散された。

 一方、日本自然保護協会、長良川下流域生物相調査団をはじめとするNGO・研究者も、建設省とは違った立場から、独自のモニタリング調査を続けていた。その結果は、1999年7月に「長良川河口堰が自然環境に与えた影響」、2000年7月に「河口堰の生態系への影響と河口域の保全」として発表されている。とくに後者をまとめるにあたっては、当協会が河口堰問題小委員会を開き、長良川、利根川など既存の河口堰の調査結果を総合するとともに、長良川河口堰の運用、吉野川可動堰の環境影響評価への提言をまとめた。

 建設省と日本自然保護協会他のモニタリング調査結果を比較すると、水質・底質などに関しては、建設省も、堰上流の湛水域においてクロロフィルaが増加し、堰下流において粒子が細かく、強熱減量で表される有機物が多く、還元状態にある泥(いわゆるヘドロ)が堆積しているなどの事実を認めざるをえなくなった。また底生生物に関しても、ヤマトシジミやゴカイの減少、クロベンケイガニ、ベンケイガニの稚ガニの減少は認めている。ただしシジミの減少は、堰上流の淡水化した場所と堰下流の浚渫を実施した場所で減少しているとして、底質の変化によるものであることを認めていない。とくにひどいのは魚類の溯上・降下に与えた影響であり、アユに関しては、稚魚の溯上、仔魚の降下は順調とするこれまでの主張をくり返すのみである。サツキマスについては、1995年以降の溯上数は減少、とくに1999年の著しい減少は認めざるを得なくなっているが、年変動の範囲内であるという主張をしている。カジカにいたっては、45km地点での溯上数が、1995年の83216から、1999年の3まで、著しい減少を示しているにもかかわらず、溯上が確認されたという表現を用いている。

 建設省のモニタリング委員会は、「委員会は、モニタリング結果についての科学的判断について指導し、必要に応じて堰の操作についても助言を行う」とされていたにもかかわらず、データの解釈の議論に終止し、長良川の環境が悪化しているにもかかわらず、具体的な堰の運用を提言してこなかった。  日本自然保護協会河口堰問題小委員会は、堰の影響を認めている水質や生物などからでもよいから、溶存酸素の減少、クロロフィルaの増加時のゲート開放、アユ、サツキマス、カジカなどの溯上・降下に重要な時期のゲート開放を求めて、具体的な堰操作を提言し、今年の7月6日に建設省中部地方建設局に提言を行った。具体的には、溶存酸素が3ミリグラム/リットルとなった時、クロロフィルaが30マイクログラム/リットルとなった時の堰開放基準の確立を求めている。またアユの産卵、サツキマススモルト個体の降下にとって重要な10月後半の大潮時、アユ、サツキマス、カジカ、アユカケ、シラウオなどの溯上に重要な3月後半の大潮時、ヤマトシジミの着底に重要な夏の適当な時期に、ゲートを開放運用することを求めている(フラッシュ操作は、伊勢湾のノリ養殖に影響を与えるので、あくまでも開放操作を求めている)。

 健全な河口域の生態系を回復するには、河口堰を撤去することがもっとも望ましいことは論を待たない。しかし一方では、長良川河口域の環境が年々悪化していることは、このまま放置しがたい。まずは現実的な提案をして、少しずつでも河口域の生態系を回復する必要がある。それには、河川漁業者、海の漁業者、水道利用者、自然保護団体など、さまざまな立場の関係者をまじえた、検討の場をつくることが必要である。愛知万博問題では、市民参加の検討会議が、これまでの閉鎖的な行政の委員会体質を大いに変える役割を果たしたが、長良川河口堰問題においても、モニタリング委員会に代わる、市民参加の検討の場を作る必要がある。

「長良川河口堰が自然環境に与えた影響(1999)」   3150円(税込)+700円(送料)
「河口堰が生態系に与えた影響と河口域の保全(2000)」   3150円(税込)+700円(送料)
問い合わせ:日本自然保護協会会員サービス室      
TEL 03-3265-0522   FAX 03-3265-0527
日本自然保護協会


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