VOL.26-1
「公共事業が変わる」 長良川河口堰建設に反対する会 事務局長 天野礼子
長良川は、長き良き川と書きます。165キロの流程のうち、150キロくらいまで人間との関わりのとぎれない、わが国を代表する、 川の国”の川らしい、ダムのない大河でした。
ですから1988年の春にこの川の河口に巨大な堰を造る工事が始まった時、私たちは、開高健をかつぎ出して、全国民に問いました。「最後の川を殺してよいのか」と。そして「あなたの足元の川は生きているか」と。
本日2002年4月29日、新聞の一面では“川”が笑っています。
吉野川が、自民党を負かせたのです。ついに私達が政治をのっとる時代が来ました。
“自然再生法案が提出される”
これまで私達長良川から始まった全国の川を問う市民の運動は、建設省と河川局に様々な変革をさせてきました。
1990年に北川石松環境庁長官が河口堰反対で動くと、河川局は「これからは多自然工法を採用する」といい出しました。その後は「伝統工法の採用」、「河畔林の復活」と続き、ついに1997年春には、百年間使ってきた「河川法」に、百年目でようやくですが、「環境重視」と「住民対話」を盛り込むに至りました。
それでも。河川局の変身は口ばかりで、「住民対話」といいながら、吉野川で行なわれた住民投票は尊重せず、川辺川では強制収用までしてダム本体工事の着工をしようと狙っています。
一方、今国会ではまもなく、驚くべき法案が提出されます。「自然再生法案」、提出者は政府です。自民党はついに、巨大ダム推進と叫んでいても財政難で予算はつかない、こうなれば自然再生で川の小さな工事でも取ってくるしかないと思い始めたようなのです。恐るべし自民党といいたいところですが、野党がなさけないということでもあります。
昨年8月、和歌山・三重の知事が全国四一道府県の知事の賛同を得て、“緑の雇用策”を小泉政権に求め、それが採用されました。(この事業名は最初は“緑のダム”だったそうです。民主党の“緑のダム構想”、田中康夫長野県知事の“脱ダム宣言”をいまいましく思う河川局が名前を変えさせたようです。)
11月には、自民党の国土交通部会(かつての建設部会・建設族の巣窟)が「川に蛇行を取り戻す」勉強会を行ないました。それに参加した新潟県選出大臣経験者は自分の選挙区で再選を目ざすダム反対村長の応援にきてこんな発言をしたといいます。「もう自民党はダムを造らない。今日も川を自然にもどす勉強会をやってきた。清津川ダムも信濃川の治水にはほとんど役に立たない。ダムに反対する村長は正しい」と。
自民党が「自然再生法案」を提出するには、こんな流れと温暖化防止という背景があります。
“温暖化には緑のダム”
一昨年・昨年と河川政策を見るためにヨーロッパを歴訪した時に見たのは、どの国でも市民一人一人が、自分は地球温暖化を防止するために何ができるかを考えて生きているということでした。
人々は自転車に乗ったり歩いたりして駅へむかい、路面電車を使って通勤しています。ドイツでは自動車メーカーでも、自動車に乗らないで通勤している労働者には奨励金が出ています。
日本では、政府やマスコミがキャンペーンを張らないために、一人一人の国民には温暖化防止が意識されていません。今ようやく政府の予算に“緑の雇用”が採用されたのは、京都議定書の議長をやってはじめて、温暖化防止に力を入れなければならないことがわかったからに他なりません。
温暖化防止に一番効果的なことは、まずダムを造らないこと、そして大規模林道工事をやめることです。どちらも日本列島に残る貴重な樹林帯を破壊します。その樹林帯こそが温暖化防止の生命線なのです。
“世界水フォーラム”
2003年3月に、日本で“世界水フォーラム”が開催されます。河川局はそれを利用してこんなことが言いたいようです。「21世紀は水争いの時代、だから日本でもまだダムは必要」、「水力エネルギーはクリーンエネルギー」。
21世紀には確かに、水をめぐる紛争が一部の砂漠国や人口増大国や水源林破壊国で起こるかもしれません。
しかし日本は、少子化へむかい、水のリサイクルにすぐれ、工業用水は減少し、農業用水も減反で減少しています。新しいダムはいらないのです。
そして世界ではこんなことがいわれています。「水の危機には、水のまわし方をくふうすれば対応できる」(ワールドウォッチ)、「ダムはもはやクリーンエネルギーといえない」(世界ダム委員会・世界中のダムに融資してきた世界銀行によってつくられた)、「水の危機にはダム建設では対応できないし、ダムは想像以上の悪影響を地球に与え続けてきた」(パシフィック研究所と国連環境計画)。
“私たちはどう動くべきか”
日本の官僚が、これまでこの「ネットワーク」で紹介してきた欧米の官僚と違うのは、「あやまらない」というところです。
欧米では、「治水によかれ」と思って進めてきた川の直線化やダム化が、実は「治水によくなかった」ことがわかり、役人が国民にあやまりました。
今回ネットワークに登場していただいたサエ―ジ教授は、オランダ政府のデルタ計画の中の生態学者として30年間ハ―リングフリート河口堰につきあってこられた方です。
オランダでは数世紀にわたる、海と川を埋めたてて行う治水が、実はよくなかったということが反省されているのです。
「科学」というものは、まちがった時にはそのあやまちを修正していって進んでゆけます。日本の官僚には「科学」がないのです。
「水俣」しかり、「薬害エイズ」しかり、「ハンセン病」しかり、「諫早」しかり。そして「長良川」しかり。
私たち市民には、この、自民党までもが「自然再生法案」を提出してきたこの時にこそ、行動が求められています。
野党が一致して、「自然再生法案」への対抗案を作り、公共事業改革へ取り組み、自民党が「自然再生」という美名であやしい工事を進めないように監視する、そんな取り組みを求めるのです。ぼおっとしている“政治”にカツを入れましょう
そして河川局には、「口でいってること(川の再自然化)と手でやってること(川辺川の強制収用)がちがうよ。百年間の治水を反省してみよ」とせまるのです。
私たちは長良川を闘って、公共事業を変えるところまでやってきた。次は、長良川の救済です。
政府河川局は「自然再生」というなら、まず長良川河口堰のゲートをあけよ。