VOL.26-5
サケが森を育てる
C.W.ニコル
降海性のサケ、マス、イワナの産卵には汚染されていない、酸素が豊富で冷たい水ときれいな砂利の河床が必要です。つまりその川は河床の土や砂を洗い流すような早い流れと、稚魚の生育に必要な酸素がたっぷりと含まれた流れでなければなりません。また、孵化した稚魚には隠れる場所も必要です。
溯上する親サケにも休む場所が必要です。ジャンプして飛び越えて行かなければならないような滝や急流には、そのすぐ下に、魚が休んだり次のジャンプの助走をするための滝つぼのような深みがなければなりません。魚には足が無いのに、日本で造られているダムの階段式魚道にはこのような深みはありません。魚のことなど考えていないのです。
カナダやほかの国でもそうですが、急な斜面を皆伐しすぎたために、サケが溯上する何百もの川や支流が崩れてきた大きな石で埋まってしまったり、洪水で砂利の川床が削られたりしてしまいました。サケやほかの魚も死に絶えてしまいました。
これまで数十年間、カナダやアメリカのいくつかの州、例えばオレゴン州などでは、人々がサケなどの魚類が生息できるように山の斜面や川の再生に努めてきて、成果を上げています。
ところが、溯上する親サケが川に持ち帰ってくる栄養素が稚魚の生育に欠かすことのできない物だということが分ってきたのです。さらに科学者たちは、サケが溯上してくる川の周辺の木々や他の植物が青々と茂っているのは、哺乳動物や鳥たち、とりわけ熊が一番なのですが、これらが森の中へ持ち込むサケの栄養素によるのだと、指摘しています。
一人の科学者は、一匹の熊が秋に、平均して700匹のサケを森の中に運び込むといっています。そして半分以上は食べ残すそうです。もちろん、熊の消化器官で吸収されず有効利用されなかった海の栄養素(ウンコ)も森の中へ運び込まれます。
木々の中に海の栄養素が含まれているかどうか調べる最新の方法は、木の幹からボーリングコアをとって年輪を数えて、調べたい年輪に窒素同位元素「N15」があるかどうかを調べるのです。この同位元素はサケが海で過ごした長い間にサケの体内に蓄積された物なのです。産卵のために川に戻ってきたサケの体は、その川や周辺の森の生き物たちに、いわゆる「健全な環境の影」として使われるのです。
このように、サケが海から運んでくる海の栄養素は、海からのぼってくる魚たちだけでなく周辺の森のためにも不可欠な物です。
だから、川は人間によって堰き止められたり、流れを変えられたりしてはいけないのです。サケの人口孵化や魚の養殖は自然を補うひとつの方法ですが、自然に取って代わることは非常に危険なことです。
北アメリカの人々はこのような考えをもって、未来のために計画し行動しています。
しかし日本では自然というものを否定し続け、さらに未来の自然をもだめにしているのです。
僕たちは変わらなければなりません。
C.W.ニコル 黒姫にて
2002年3月20日
追伸
優れた資料として,同志社大学経済学部の室田武博士による論文「海の栄養分の陸上への影:溯河性のサケ、人間の漁業、グアノ(漁鳥糞)地球規模での比較」を推薦します。