VOL.29-3

長島町から長良川河口堰に関する若干の報告
長島・河口堰を考える会 大森めぐみ(長島町議)


高木久司さんから与えられた題は「長良川河口堰は、私たちに何をもたらしたか」でありますが、眼に見える結果から見れば答えは出ているのですね。
 約60億円をかけた「高須輪中地域開発事業」が眼を引きます。堤防は岐阜までのスーパー堤防、輪中内の区画整備、土地改良、排水機設置、内川の整備、道路の整備。そして三川を見下ろすタワーのある木曾三川国営公園。立田村から三川を橋で結び多度町の大桑道路にいたる幹線の建設。大いなるおまけの十数億円かけた国際レガッタ競技場。
 長島町では、浸透水対策としての大規模排水路、排水機工事とこの維持管理費として40数億円の一括払い補助金。そして政権交代がつかの間もたらした政権与党「さきがけ」の若き正義漢、高見祐一代議士が建設省河川局長の竹村公太郎を一喝して、予定を5年早めて実現させた長島町の高潮対策堤防。
長良川河口堰は、それらをもたらしました。地元にはありがたい賜物です。与えられた題名に対する答えはそれだけです。
 しかし河口堰の地元に住む私たちは「長良川河口堰は何を残しているか」の方をこそ書き留めておかねばならないでしょう。
「しじみ」の問題で漁師さんたちと調査を続けた人たちがいましたが、もうしじみはすべて死に絶えて漁師さんたちは抜けていきました。

いま国交省に、おんぶにだっこをされながら一見楽しそうに活動しているのは、官製の保護活動団体「木曾三川・夢の郷・プロジエクトの自然再生分科会」でしょうか。
1年に1回10月10日午前10時に、長良川の上流、中流、河口で、この会員たちがいっせいに川の水を採取してただちに検査して水質を調査しています。調査する内容はBOD調査と称していますが、温度、ペーハー、塩素イオンなど、ずぶの素人が楽しく騒ぎながら川のそばで検査できるものです。
その結果を麗々しく発表する会議に出た私は「長良川の水質を本気で調査するのならこれでは無意味。10月は水温が低い、水温の高い8月はじめにやるべきだ。午前10時も水温がまだ上がっていない。午後の水温が高いときにすべきだ。底層の溶存酸素を調べなければ水質はわからない」と発言しました。するとただちに憎しみに満ちた反論が返りました。「貴女は簡単に文句をつけるが、この調査は準備など大変なものでした。上流、中流、河口で時間を合わせて同時刻にいっせいに検査する。長良川で心をひとつにして同じ検査をする。この苦労と達成感を評価できないのか。」
(私だってこんな会に来たくはない。四方みな冷淡な敵意に満ちている席だ。でも私は来てやる、来なければならない。重要そうな会にしか出ないつもりだけど。発言のせいか検査は8月も追加されたようです。)
 そして、ついに私は長良川の起死回生につながるかも知れない重要な会議につらなったのでした。それは「始まった!千本松原の松の枯死」。
 
松の枯れ死が続く、河口堰上流の堤防 千本松原
写真 伊藤孝司

私たち長島の仲間は1991年、「河口堰が完成して水を貯めれば、千本松原は枯れる、必ず枯れる」という重要な情報を得て、早速チラシを作り、この警告を海津町の全家庭に新聞折込み配布して知らせました。「いまその警告が現実の悲劇となった」のです。
私はただちに状況を、朝日の記者に知らせて調査をお願いしました。本年1月まだ松の内の5日にこれが大きく報道されました。「河口堰の影響指摘も」と。
いま、河口堰問題で共に動く仲間もいない困難の中、でも「千本松原を救いたい」ために、私は少しずつ動き始めようとしています。
 海津町の史上最大の繁栄の中で、ひとりその犠牲となり、ひっそりと絶滅に向かって歩みを速めている「宝暦治水の生きた記念、薩摩義士の恨みを埋めた千本松原」。河口堰のゲートを上げるしか救う方法はないのでありますが。

 最後に長良川河口堰で貯めている水は今どうなっているか、お知らせします。
 昨年4月、知事選挙があり知事が交代しました。そのとき調印された「三重県知事事務引継書」大冊を、友人が全文情報公開し頒布しました。私の見るべき所は「企業庁のなかの未利用水、未売水の項」しかありません。
 「工業用水分、毎年20億8千万円(三重県の総額は355億円)を償還しているが売り先はない。既存の北伊勢工業用水もユーザーから契約量の減量要望が出ている。将来、工業用地新規立地があっても用水が高価格になるため、誘致の困難性がある」
 「津市ほか中勢の水道用水、四日市ほかの北勢の水道用水、いずれも導水工事(工事費総額1千128億円)が延期したままになっており、工事再開の見通しが立たない。
 河口堰の水道は水価が高いので水道料金にどれくらい転嫁できるか困難。企業庁が負担している「水資源機構」への長良川河口堰分償還金が経営を圧迫している。
 伊賀地方の「川上ダム」。検討委員会のダム中止決定で建設が大幅に遅れ、給水計画が立たない。この水道計画では水価格が1?あたり411円と非常に高いものとなり、受水市町村がこの負担に耐えられるか心配である」
 ほかに、名古屋市は導水、通水計画なし。愛知県は、知多半島へ木曽川の送水を停止して長良川河口堰の水を送り、市民に「毒水」を飲ませて人体実験中。工業用水は三重県と同様に売り先はない。
                       




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