VOL.27-1

「“ダム撤去”の時代」 へ
長良川河口堰建設に反対する会 事務局長 天野礼子

  長野県知事選は、TV画面の田中康夫に1分以内に「当選確実」がでるという圧倒的勝利だった。彼の“脱ダム”路線はあらためて県民の支持を受けたわけだ。その選挙期間中そして選挙が終わっても、全国のマスコミは田中康夫を露出し続けた。
 私にはまるでそれが、 「“ダム撤去”の時代」への突入のゴングのように聞こえた。長野が、そしてニッポンが志向しているのは、“脱ダム”に代表される、大量消費・大量生産・大量破棄を否定する社会、あるいは「原発」よりも「自然再生エネルギー」を選ぶ社会なのではないだろうか。
 私たちの国は戦後、オイルで世界を支配しようと目論むアメリカの占領を受け、彼らの政策である「道路」「原子力」「ダム」を日本中にばらまいてきた。
 それが、田中康夫知事の誕生、そしてそれに後押しを受けた小泉総理の誕生によって今、国民から「NO!」をつきつけられ、もうこの潮流は止めようがないところまで来ているといえるだろう。いまや「“緑のダム”構想」は、小泉総理の「緑の雇用策」として全国に採用されている。
 次は、“ダム撤去”の時代が日本にもやってくる。
撤去途中のミルウォーキー川のワウベカダム


アメリカの“ダム撤去”
 10月1日よりアメリカへ飛び、ダム撤去が続く現地を歩いてきた。
 アメリカでは、環境にやさしくないブッシュ政権下でも「ダム撤去」が続いており、これまでに500のダムが撤去され、2002年度は過去最多の六三の撤去が実行されている。
 アメリカで最長の“ダムなし川”は、ウィスコンシン州にある約200キロのバラブー川で、ここには高さ10メートルまでのダムが5つあったが、2001年暮れまでにすべて撤去された。私はこのバラブー川や州内ミルウォーキー川で撤去中のワウベカダムなどを、市民団体『リバー・アライアンス』の案内で見てきた。
 「アメリカ内でも特にウィスコンシン州でダム撤去の熱が高いのは、住民の環境意識が高いことと、1990年代から州政府が撤去に対する補助金を出すようになったため」と教えてくれた『リバー・アライアンス』があるマディソンはとても美しい大学街で、この街を見ると、五十嵐教授がいうように「美しい街に住む市民は美しい心を持っている」ということがよくわかる。 “ダム”は美しくない。しかし長年の間ひとびとはダムが治水と利水に有効であると信じ使ってきた。その神話が壊れた時、美しい街に住む人々がまず「ダムはもういらない」と声を挙げ始めたということだろう。
 ダムの所有者は電力会社や市など多様だが、撤去が選択されたのは(1)老朽化したダムを修復・維持しようとすると撤去よりもコストが3〜4倍かかると試算された (2)近年の法整備で魚道の改良や環境アセスメントが所有者の義務となり、その負担が嫌われた (3)撤去には政府や州の指導があり、補助も出る、ことが主な理由。
 日本の国土交通省は「アメリカでダム撤去といっても、古くて小さなダムばかり」といってせせら笑っているらしいが、そうではない。1999年に壊されたメイン州ケネベック川のエドワードダムは大きなダムだし、今年の10月(私の帰国後)にワシントンで開催された「ダム撤去」シンポジウムのテーマは「大型ダムの撤去」で、そこでは陸軍工兵隊がカリフォルニアのアティジャダム(高さ60メートル)の撤去の可能性を調査していることが話題を呼んだという。

日本の“ダム撤去”は、長野から始まる
 田中康夫の「“脱ダム”宣言」にはこうある。「日本の背骨に位置し、数多(あまた)の水源を擁する長野県に於いては出来得る限り、コンクリートのダムを造るべきではない」。
 皆さんはこの意味を考えられたことがあるだろうか。「日本の背骨」とは、「中央構造線」のことである。この巨大活断層群を抱える長野では、小さな揺れの度に山から土砂が出てくる。だから、天竜川にせよ、大井川にせよ、長野県の斜面を源流とする川に存在するダムの堆砂率は高いのだ。大井川の千頭ダムは九十八パーセントの堆砂率だ。
 ダムが水で満杯の時に地震が起きて決壊すると危ない、だから地震の多い長野県にはダムを造らない方がいい。堆砂でダムが一杯になっていると、少しの雨でも決壊する、中央構造線直下の長野県は他県よりも危険度が高い。
 「だから長野県では、ダムに替わる治水を進めるべきである」と、田中康夫は「“脱ダム”宣言」の見事な短文に長野とダムのあり方を表現したのだ。  実は、日本初のアメリカの建造による大型ダムも、わが国が初めて自国の手で造った大型ダムも、長野県下にある(皆さん、自分で調べてみて下さい)。
 そしてそれらのダムの水利権切れや老朽化が次々とやってくるというのが、嬉しいことにわが国の現実なのである。
 フフフ。知事は“田中ちゃん”、どうする国交省?

「自然再生推進法案」は、第三の「列島改造論」
 長良川河口堰のゲートが閉められようとしていた1995年2月(3月にゲート完成)に、「アメリカのダム開発の時代は終わった」と世界へ向けて発言した米国開墾局総裁ダニエル・ビアード氏はわざわざ日本へ来てくれて「長良川を殺すな。この川は“世界遺産”にするべき」と助言してくれた。
 96年には私をアメリカへ招いてくれ、開墾局が、他のダム建設官庁である陸軍工兵隊とTVA(テネシー川流域開発公社)を集めて勉強会を開いてくれた。そこで私は、陸軍工兵隊が九三年のミシシッピ川の大洪水で「川をまっすぐにする治水」を反省したことを知った。
 2000年にはヨーロッパへ行き、(1)財政の観点からもダムが見直されている (2)財政が困窮していても“自然再生”に税金がまわされ新しい公共事業になっている、ことを学んだ。
 それを鳩山由紀夫と亀井静香に伝えると亀井氏がまず「公共事業の抜本的見直し検討会」をつくり、鳩山氏は「公共事業を国民の手に取り戻す委員会」をつくった。そして亀井氏は二三三の事業を止めてみせた。
 二〇〇一年十二月には自民党の国土交通部会(かつての建設部会)が、ヨーロッパから講師を招いて「川を蛇行させる」勉強を行なった。  そうして出てきたのが、「自然再生推進法案」である。この法案が成立すると、環境アセスメントなしに(一つ一つが小さいからアセスメントをやらないでよいと環境省がいっている)、知事の認定したNPO法人(全国に、ダム反対団体などを認定する知事が田中の他に何人いる?)達の多数決で、「工事」ができる。しかも“自然再生”という美名の元でだ。
 環境庁に藤前干潟を止めてもらったT氏がまず説得され、次には初代環境庁長官の息子である大石正光衆議院議員(当時衆議院環境委員長)が丸め込まれ、環境庁から財団認可を受けてきたWWFJなど環境御三家が加担させられそうになって、民主党が与党と共同提案をしてしまうという場面にまで至って、ようやくこれを、鳩山由紀夫民主党代表が「ひっくりかえした」(くわしくは「公共事業チェックを求めるNGOの会」のホームページを参照下さい)のだが、本日(11月19日)可決されてしまった。
 与党からの「自然再生法案」は、第三の「列島改造論」である。
 欧米でダムを止めたり、遊水地による治水を進めている官僚達はどの国でも、まず国民にこれまで百年の河川政策を謝り、一番厳しいNGOに頭を垂れて教えを乞うた。

ワウベカダムの破片を拾ってきました。
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 それに比べ日本はどうだ。政府は右手で、川辺川ダムの強制収用による本体着工を目論み、長良川河口堰を運用し、諫早干拓を進めていながら、左手で“自然再生”というあらたな開発工事をやろうとしているだけなのだ。

さぁ、ゴングは鳴り続いている。私たちもアメリカのように“ダム撤去”へ向かおう。
 「田中」は田中でも、田中角栄的手法で続けられてきた悪しき公共事業による政治支配におさらばするのだ。 12月12日は、松本へ!

(アメリカへの旅の前にカナダへゆき、ライムヘン教授のサーモンの調査に参加し、ケオ川の再生事業も見てきました。この二つとアメリカへの旅を、月刊「つり人」1月号より3回に分けてくわしく連載しますので、ご覧下さい)


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