VOL.27-3

「サーモンの教え」
トム・ライムヘン


 海の栄養素をサケが川に運び、そのサケを熊が森の中に運びます。そのサケが運んだ海の栄養素が森を育てます。そのような生物の多様性におけるサケの重要性について話したいと思います。最後にサケの保護について話したいと思います。 
この地図をご覧ください。ここは私が住んでいるところ(ブリティッシュ・コロンビア州)です。赤い点のところは私が訪れた川を示しています。2000ものサケが溯上する川がありますが、それらはとても小さな川です。私は100万匹ものサケがぼってくるこれらの小さな川について研究をしています。
(小さな川の入り江の風景)
これは典型的な河口の写真です。ブリティッシュ・コロンビア州の海岸ではこのような風景はよく見られます。 手前にはカモメがいます。向こうには熊がいてサケを捕っています。

この小さな川の幅は、多分このステージの幅ぐらいだと思いますが、35,000匹ほどのサケがいます。長さはたったの1キロメータしかありません。これがサケがのぼると言われる川の代表的なものです。


サケ(サカイ・サーモン)が川を溯上しています。これが海からやってくる栄養素なのです。データを示す前にお見せしたいものがあります。熊がサケを捕っているところを写した5分ほどのビデオをお見せします。
それは、自然がまだこのように残っており、またそうあるべきであり、また、他の北太平洋の沿岸でもでもこの様になることが出来ると思っています。
最初のビデオを出してください。 先ほどの小さな川です。 これは、自然に出来た小さなダムです。サケがジャンプしてのぼっているのが見えます。
私は川の中に立ってみています。 これは黒熊です。これらの熊が摂取するたんぱく質の70パーセントはサケからのものです。それらを40日間で摂取します。1年間に消費するたんぱく質の70パーセントをサケからとります。これらはチャムサーモンあるいはドッグサーモンと呼ばれているサケです。熊はこのようにしてサケを捕まえます。
このプールには500匹ぐらいのサケがいますね。熊はようやく好きなサケを捕ったようです。何をするのでしょう。匂いをかいでいますね。雌のサケであることを確認するわけです。そして森の中へ入っていきます。そこでサケを食べます。まず頭から食べます。脳みその部分が一番すきなのです。それからこの辺の筋肉を食べます。そして他のところを食べていきます。黒熊は昼間は雌のサケを食べて、夜はオスのサケを食べます。
私の観察によるとこの川には8匹の熊がいます。私はこれらの熊が食べ残したサケのあご、頭、おなかの部分など、それらの大きさなどを調べました。サケの産卵時期の7週間ほどこのような調査をしました。そこで捕獲の4分の3は夜間に行われることを発見しました。
これはスピリットベアです。白い毛皮ですが、黒熊の仲間です。スピリットベアと言いますのは、地元の人たちはこの熊を「聖なるもの」としているからです。このテープは熊の夜の生態を捉えたものとしては始めてのものでしょう。今まで私たちは熊が夜間サケを捕まえるかどうか知らなかったのですが、実際暗闇の中でかなりの成功率でサケを捕まえています。どうも「音」でサケを捕まえているようです。これは赤外線を使って撮影しています。
熊には赤外線は見えていません。夜は怖いです、かなり怖いですよ。非常に静かですから、自分の心臓がドキドキしているのが聞こえてくるくらいです。ここにサケがいるのが見えますね。白い熊も見えますね、黒い熊も見えます。ここはちょうどこの辺、ブリティッシュ・コロンビアの中央です。この研究の中の重要な発見のひとつは、熊がサケを捕まえた後森へ運ぶと言うことです。


ここでまとめたいと思います。グラフを使うより、言葉で説明したいと思います。熊は夜の間にオスのサケを多く捕まえるので、メスのサケよりもオスのサケを多く捕まえます。他の熊との接触を避けるため、夜間に大部分のサケを森の中に運びます。それぞれの熊は産卵時期の40日間で約700匹のサケを捕まえます。覚えておいて欲しいのですが、これは熊の年間たんぱく質消費量の70パーセントに相当します。もし充分なサケを捕まえることが出来なければ、充分な脂肪を蓄えることが出来ず、越冬して生き延びることは出来ません。毎年の調査でも8匹の熊は産卵時期に溯上するサケの70パーセントを捕獲しています。その川では毎年5,000匹のサケが溯上します。そのようにたくさんのサケを熊が捕獲してしまって、後にどれだけ残るのだろうと思うかもしれません。それではサケが繁殖する条件とはいったいどのようなものなのでしょうか。熊がサケを捕まえてしまうということより、サケが繁殖できる条件と言うものがより重要なのです。熊はサケの頭や筋肉の部分を好んで食べますが、オスの精巣の部分は好みません。ですから毎日毎日精巣の部分は森の中にたまっていきます。観察を続けているうちに、この精巣に何かの情報があるに違いないと私には思えてきました。そこで精巣について調べようと思いました。わたしはまず川には入る前のオスの精巣の重さを量りました。射精前の精巣の重さはサケ全体の重さの3.1パーセントになります。射精後は1パーセントあるいはそれ以下になります。熊が捕まえてきたサケの精巣の重さを量れば、それが射精前か射精後かわかります。私は700匹分のサケの精巣の重さを量りました。平均して、射精前の精巣の61パーセントでした。オスのサケは1回に精巣の重さの5パーセントの精子を射精します。60パーセントの重さの精巣をもつサケは熊につかまる前に少なくても6回射精したことになります。メスの場合はどうでしょう。熊は私たちと同じように卵が好きです。熊に捕獲されたメスのサケの10パーセントが産卵前のものでした。20パーセントのメスのサケは産卵途中のものでした。熊に捕獲されたメスのサケの70パーセントのものはすでに産卵してしまったものでした。熊による大量の捕獲量にもかかわらず、サケの繁殖にとって熊による捕獲は大した障害ではないと結論づけることが出来ます。熊はどれくらいの量のサケの死骸を森に残すのでしょうか。


これは熊が残した典型的なサケの死骸です。背中の部分が食べられています。また、よく見えませんが、頭の部分が食べられています。私は、たくさんの死骸の重さを量りました。頭、腸や精巣などの内臓、骨などが残されていました。ドッグサーモンの場合、平均体重は約3キログラムあります。熊が残したサケの死骸の平均的な重さは約1.5キログラムあります。
生態学的な意味を理解のために必要なことは、川沿いの森林の中にどれくらいの栄養素があるかと言うことです。水際から5メートルの範囲内の川岸に4,000キログラムのサケの死骸が残されていました。5メートルから10メートルの範囲内では2,000キログラム残されていました。森林の奥に入るにしたがって、サケの死骸の量は減っていきます。というのは、熊がそれほど奥の方までサケを持っていかないからです。サケの死骸が残されている範囲は川から200メートルまでで、大部分は50メートルの範囲内だと言うことを発見しました。私たちはブリティッシュ・コロンビア州の海岸にある100の河川の流域を調べていますが、熊がサケを森の中に運ぶことは、広く見られます。これらのサケの死骸は森の中でどうなるのでしょう。1992年に熊は2,200キログラムの死骸を残しました。私はこれらの死骸がどうなったか調べました。約4羽のワタリガラスが19キログラムの残骸を食べました。260羽のカラスが300から400キログラムの残骸を食べました。その他350羽のカモメ、2匹のテン、昆虫などが残骸を食べています。
私は4年間この問題を研究しています。1993年における総括的な栄養素の移動についてお見せします。この年は5,500匹のサケが溯上しました。重さにして16,800キログラムです。これは河口での捕食者の割合を示しています。熊が500キログラム、アザラシが239キログラム、トドが30キログラムです。これらの円の大きさが割合を示しています。サケの大部分は産卵のためにもっと上流に上っていきます。川の中で、熊が1,300キログラム、カモメなどの鳥が1,200キログラム、昆虫類が250キログラム捕食します。そしてその残骸は河口まで流されていきます。そこで、貝やヒトデ、カニなどに食べられます。またこれらの栄養素は河口に育つ海藻にも窒素を与えます。海藻が吸収する窒素の半分以上がサケの死骸からのものです。
しかしながら、私が焦点を当てたのはここです。サケの4分の3は熊によって森に運ばれ、そのうち半分は熊に食べられ、その残りは昆虫などのいわゆる「森の掃除屋さん」によって食べられます。

これは蛆虫です。4,000キログラムもの蛆虫です。林床はお米で覆われたようです。蛆虫は森のどこにでもいます。蛆虫を食べるものはいません。蛆虫は林床のあらゆる残骸をきれいに掃除します。蛆虫は残骸をきれいに食べ尽くした後、土の中に入りさなぎになって越冬します。春になっていろいろな鳥たちが戻ってくるころ、ハエは羽化して飛び立ち、鳥のえさになります。ハエは森の上のほうにも行きます。それはサケからきたものです。それは海の中からきたものです。それが今、森を養っています。

このあと、ライムケン教授は窒素同位元素を利用した調査などについて講演されましたが、紙面の都合上、概略だけとさせていただきます。

熊によって森の中に運ばれた窒素が1ヘクタール当り120kgとなること。これは、造林業者が施肥する窒素肥料の量に匹敵すること。樹木に含まれる窒素の中でサケからのものがどのくらいの割合であるのかを同位元素のN-15で調査したこと。その結果、鮭の溯上の多かった年の1〜3年後に、樹木中の N-15 の増加が認められ、鮭の多い地域では、樹木の窒素の 30% 以上が鮭(海)由来のものであると推測されること。サケの遡上が多かった年は木の年輪の幅が広くなることなど。これらは最新の研究でこれからさらに研究が深められるそうです。




最後にふたたびライムへン教授の講演に戻ります。


さて、アラスカでは以前に比べてずいぶんサケが減っています。その主な原因は森林伐採と漁獲過多です。カナダのブリティッシュコロンビア州でも森林伐採と漁獲過多が原因でサケが減りました。ところがアメリカ・ワシントン州やオレゴン州では、さらに多くのサケが失われているのですが、その原因はダム建設でした。

今日、私はダムの専門家としてきているわけではないのですが、ただ言いたいことは、川というものは自然を生み出すものだということです。ピンクサーモンもサツキマスも他の生物たちも、栄養が必要なのです。そしてダムのような障害物はそれを阻止してしまうのです。


結論として、サケは海にとっても川にとっても森の植物や昆虫や動物やさらに人間にとっても、とても大切な生き物です。また、生物多様性においても重要です。クマもまた、サケの運び屋として重要な役割をになっています。
 これを考えますと、サケの獲り過ぎや過剰な森林伐採やダム建設によって、サケを失うようなことは許してはいけないことです。
私の見解では、沿岸部や流域は保全されなければなりません。そしてサケが川を遡上することが保全されなければなりません。それは生物多様性にとっても非常に重要なことだからです。
今日はお招きいただきましてありがとうございました。
皆さまのご活躍をお祈りいたします。
(翻訳 島田俊夫)


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