VOL.27-5
リビングウォーターズキャンペーン by WWFI
=長良川における、河口堰の環境への破壊的影響と、再生へのプログラム=
岐阜大学教授 (長良川下流域生物層調査団)粕谷志郎
WWFI (世界自然保護基金)は、去る2000年2月より、世界の河川の中で長良川を選定し、その流域において、今後の水資源管理および環境保全のあり方を模索するための調査を開始した。このほど、その報告書(日本語版)が公表された。図表を含みA4版で61ページにのぼるもので、以下、簡単に要約する。
長良川は本流にダムのない、最後の「自然大河」と言われてきた。大日岳(標高1709m)を源流とし、幹線流路の延長は166km、流域面積約2000平方メートルで、伊勢湾(太平洋)に注ぐ。過去5年間の最小流量が11.9−21.9立方メートル/秒に対し、最大流量が6026〜1677立法メートル/秒と、その差は大きいが、平水量は50〜60立法メートル//秒、年間総流量も3000〜4000×100万立法メートルと安定している。流域の地層は古生代石炭紀から沖積層に至るまで多様である。さらに、126種の魚、168種の植物、133種の鳥が確認されるなど豊かな生態系を誇ってきた。流域の市町村は、岐阜県と三重県の2県にまたがり、4市、10町、4村を数える。その総人口は、736.681(1999年12月1日現在)である。
河口堰は、1960年に構想が出され、1968年に閣議決定された。多くの反対運動にもかかわらず、1988年に着工、1995年7月より運用となっている。河口堰の当初の目的は、利水であったが、安八水害を境に治水目的へと変更されていった。
河口堰運用により、河床にヘドロが堆積し、シジミなどの底生動物がほとんど消滅し、藻類の発生増加、ヨシ原の衰退、アユ、サツキマスの激減などの、大きな影響が明らかになってきた。
河道の浚渫による最大の水位低下は、30km地点の1.40mだが、25〜35km地点間における浚渫前の最高水位(流量7500立法メートル/秒の水位)と、堤防天端とのスペースは1.85m〜2.10mで十分である。逆に、最もスペースに余裕がないのは8km〜12km地点間(長島町、1944年の東南海地震で沈降した)の0.5mと海津町南部に点在する0.6m〜0.7mの地点であるが、このあたりの浚渫による水位低下は0.6m〜0.7mにすぎず、堤防の嵩上げ以外に安全は無い。
水資源開発公団法令・ダム法令の規定によって、目的別の費用便益分析が義務づけられており、同制度が機能すれば長良川河口堰は当然ストップしたはずであった。85年変更の事業費1500億円では、原水単価は約16円/t(専用費抜き)となり、河口堰の負担だけでも着工時(88年)の工水料金(専用費込み)を超過する(四日市13円/t)。実質的に身替り建設費=妥当投資額とする制度・運用によって、便益のない浪費的事業にストップがかからなくなったのである。
仮想市場評価法(CVM)により長良川の自然環境を改善させる価値を求めてみると、7兆6810億4560万円を算出した。
強混合の時期と引き潮にゲート全開することによって、貧酸素状態とヘドロの堆積は減少し、ヤマトシジミは回復できる。アユ、サツキマスの溯上、降下の時期に堰全開か、全開に近い運用を行うことによって、これら魚種および、同じ時期に汽水域を通過するカジカ類等の回復は比較的早期に望むことが出来る。水位の高低差も再び2m以上におよぶと見込まれるため、ヨシ原の回復が見込まれる。
塩止め・塩害防止にこれほど高価で、有害な施設を必要とするのか、安価で多様な塩害対策は可能である。開放に近い堰運用によって生ずる田畑の塩害は、補償金による対処が可能である。伊勢湾台風前の長島町と同じ規模の塩害が海津町、平田町に発生するとのあり得ない仮定に立っても、被害は年額1200万円〜1400万円と想定される。河口堰の建設費はその1万年分をこえる。また、こうした危険の予測される田畑を買い取り、湿地の回復、氾濫原の確保にあてる。
北伊勢工業用水の取水口を、塩分の混じらない上流にすげ替える。それによって、堰の開放や開放に近い運用を無理なく実施できる。飲用水の安全性強化のために、河口部の水に頼らず、第一義的に中・上流での取水したものを当てればよい。
(資料 「長良川における、河口堰の環境への破壊的影響と、再生へのプログラム」WWFリビングウォタースキャンペーン報告書参照)
注:報告書は長良川グッズとして販売しています